システムインテグレーターが生き残る道【後編】(2/2 ページ)

» 2013年03月15日 08時30分 公開
[内山悟志(ITR),ITmedia]
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今後SI企業が着目すべき事業領域

 さて、もう少し視野を広げて、今後SI企業が着目すべき事業領域を考えてみたい。これまで多くのSI企業が注力していた事業領域は、エンタープライズIT(企業内情報システム)市場での受託開発、SEの常駐派遣、商用パッケージを活用した導入支援サービスなどだった。受託開発やSEの常駐派遣はSI企業の主戦場といえるが、前述の通り、国内企業のIT予算の縮小や海外流出、クラウドの浸透、オフショアの台頭などにより、これまで以上に価格競争が激しい市場となることが予想される。また、ERPに代表される商用パッケージを活用したビジネスは、SI企業にとって大きな収益源の1つであるが、技術のコモディティ化とクラウド化が進行するにつれて、カスタマイズ開発や保守開発などの個々の案件規模は縮小化し、十分な利益確保が困難となる可能性が高い。

 従って、SI企業はこれまでの事業領域の外に活路を見出していかねばならない。同じエンタープライズIT市場の中でも、これまで十分に注力していなかった有力な事業領域がいくつかある。その1つが前述した、業種・業務知識を生かした超上流工程の支援である(図2)

 さらに、特定の業種・業務における専門的ノウハウを結集して構築したビジネスモデルやイノベーション事例をソリューション化し、パッケージまたはクラウドサービス化して多くの企業向けに展開する事業も有望である。受託開発やSE派遣は役務提供型のビジネスであるため輸出しにくいが、パッケージやクラウドサービス化することでグローバルな展開も可能となる。

図2 SI企業を取り巻く広大な市場(出典:ITR) 図2 SI企業を取り巻く広大な市場(出典:ITR)

 もう1つ着目したいのがオープンソースソフトウェア(OSS)の活用である。以前はオープンソースといえば、WebアプリケーションサーバやDBMSなど一部のミドルウェアをミッションクリティカルでない分野に適用するという範囲にとどまっていた。しかし、昨今ではBIツール、システム管理系ツール、ERPなど多種多様なOSSが登場している。オープンソースであれば、パッケージベンダーへ支払うライセンス料金や保守料が軽減される分だけSI企業の利幅は大きくなる。

 また、バージョンアップや機能拡張をベンダーにコントロールされることもない。OSSをベースに開発して納入したシステムについては、そのSI企業が保守サポートを行うこととなるため、運用フェーズにおいても継続的な収益が見込まれる。ただし、トラブル対応などを開発元のベンダーに丸投げすることはできないため、当該OSSに対して深い技術的知識を具備して臨まなければならない。

 一方、エンタープライズIT市場にとどまらず、視野をその外に向けると今後著しい成長が見込まれる社会インフラITやコンシューマITという市場が広がっている。社会インフラITには、交通、医療、教育、エネルギー、防災、防犯、公共サービス、地方自治体など今後IT化が急速に進むであろう未開拓の市場分野が多数存在している。

 コンシューマIT分野では、スマートフォンアプリ、コンテンツサービス、電子書籍、動画、ネット系サービスなど将来的にはエンタープライズITにも影響を及ぼす技術分野が多い。こうした非エンタープライズITの領域では、ミッションクリティカルなシステムを構築・運用できる技術者やプロジェクトマネジャーが不足することが予想されるため、SI企業のノウハウが生かされるといえよう。

 さらに視野を広げると、ITを活用した非IT分野の新規事業や非IT企業との共同事業などの可能性も見えてくる。ITを活用して非IT分野でのビジネスイノベーションを創出するには、前に述べた業種や業務に特化した深い知識と洞察力が必要となる。

 これまで述べてきたように、SI企業に安住の地はない。これまでの成功体験にしがみついていると、技術革新とビジネス環境のダイナミックな変化の渦に飲み込まれてしまうという認識を持たなければならない。幅広い視野と斬新なアイデアを武器に、未来を切り開いていくこと以外に生きる道はないのである。

著者プロフィール

内山悟志(うちやま さとし)

株式会社アイ・ティ・アール(ITR) 代表取締役/プリンシパル・アナリスト

大手外資系企業の情報システム部門、データクエスト・ジャパン株式会社のシニア・アナリストを経て、1994年、情報技術研究所(現ITR)を設立し代表取締役に就任。ガートナーグループ・ジャパン・リサーチ・センター代表を兼務する。現在は、IT戦略、IT投資、IT組織運営などの分野を専門とするアナリストとして活動。近著は「名前だけのITコンサルなんていらない」(翔泳社)、「日本版SOX法 IT統制実践法」(SRC)、そのほか寄稿記事、講演など多数。


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