VDI、SSL-VPN、BYODを駆使したThin Officeの全容と活用実態次世代オフィスの進化論(2/2 ページ)

» 2013年04月01日 09時00分 公開
[会田雄一(クオリカ),ITmedia]
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Thin Officeが生まれた理由

 クオリカがThin Officeを作るきっかけになったのは、2011年3月11日に発生した東日本大震災である。クオリカ自体に直接の被災は無かったが、この後の交通困難や計画停電への対応に迫られた。また、いつ発生してもおかしくない東京直下型地震や東海・東南海地震に対するBCP(事業継続計画)を策定することの緊急性も痛感した。例えオフィスが被災しても、あるいは、社員の多くがオフィスに出勤できない事態が生じても、社員が仕事を継続できる社内インフラを構築することがBCPの重要なテーマであると確信し、実現方法の検討に着手した。

 検討を始めると、オフィスにおけるPC利用のモデルが時代遅れになっていることに気が付いた。これまでの一般的なルールは、次の3点である。

  1. 社員一人ひとりにそれぞれ専用のPCを貸与して仕事をさせる。このPCは資料や文書の作成や閲覧に利用するだけでなく、社内LAN経由で業務システムにアクセスしたり、メールやインターネットにもアクセスする端末として使用する
  2. PC上のHDDに、データをダウンロードしたり、作成中や完成した資料などを保管したりする。そして、これらのデータを利用して仕事を進める
  3. セキュリティの観点から、PCをオフィス外に持ち出すことは通常禁止されている。また、個人所有のPCやタブレットを社内LANに接続することは禁止されている

 このPC利用モデルは約20年前に登場し、広く普及している。しかし、このモデルには大きな問題がある。BCP、セキュリティ強化、内部統制強化、在宅勤務に代表されるワークスタイルの変革など、最近重要になってきた課題に関しては阻害要因であることだ。

 オフィスにあるPCと、その中に保管したデータを使わないと仕事ができないのだから、オフィスが被災、あるいは、オフィスに出勤できない事態が生じたら仕事はできなくなる。社員全員のワークスタイルの変革など、望むべくもない。PCの管理やPC上のデータの管理を、最後は専用貸与した社員個人に委ねてしまうのだから、セキュリティの担保も困難になれば、内部統制だって徹底が難しくなる。

 結局、従来のオフィスのPC利用モデルは、時代遅れになりつつあり、これに変わるモデルを考えない限り、BCPも実現できないことが分かった。

ワークスタイル変革で生産性向上を目指せ

 一方でオフィスを取り巻く環境、とりわけICTの環境は大きく変わっている。クオリカの社員も、大半は自宅にPCがあり、高速、定額料金でインターネットにつないでいる。筆者を含め、個人で購入したモバイルPCやタブレット端末を持ち歩く人も多く、携帯電話は急速にスマートフォンに置き換わっている。

 VDIやSSL-VPNなど、従来のPC利用モデルを抜本的に変革するソリューションも登場しており、クオリカでは既にテスト導入して評価を済ませていたので、十分に実用に耐え、コスト的にもメリットが期待できると判断していた。

 これらの調査や検討の結果から、BCP対策を主目的とするのではなく、新しいICTの環境や技術を積極的に活用し、ワークスタイルを変革し、生産性の向上を図ることを目的として、次世代オフィスを構築するという結論に達した。

 構築期間は、結果的に3つの工程に分けて実施した。(表1)第1期は地震や計画停電対応を優先し、東京地区の事業所を対象に、VDI、SSL-VPN、BYODの3つの技術を導入し、社内のインフラ環境の一新を図った。その工程途中の2011年8月、突然に本社移転が決まったため、第2期の工程を挿入し、新本社のオフィス全体のデザインと構築を行った。

 第2期の目的も、「オフィスワークのスタイルを変革し、生産性を上げる」と定義した。オフィスの設備や配置を含めてオフィスの生産性を上げる手法等を調査し、採用するものを選択した。もちろん、最新のICT技術の活用に積極的に挑戦し、工夫した。

 例えば、座席のフリーアドレスは、最近のオフィスでは当たり前になっているが、どの企業も、ノートPCを各社員に専用貸与し、これを持ち歩くというスタイルを採っていた。しかし、クオリカではワークスタイル変革のため、PCを捨てて、VDIに切り替えることが決まっていたので、ノートPCの貸与はあり得なかった。

 そこで、私たちは発想を変え、全ての執務机や会議室、コラボレーションエリアなどに、VDI端末をあらかじめ設置することにした。社員はオフィスの中でノートPCを持ち歩く必要はない。座った執務机、集まった会議室、あるいはコラボレーションエリアの机に設置されたVDI端末の電源を入れ、自分のIDとパスワードを入力すれば、画面に自分のデスクトップが現れる。

 PCを支給しない代わりに、VDI端末の画面サイズを大きくし、執務机の上は24インチ、会議室等は42インチの高精細ディスプレイにした。(写真1、2参照)

全座席に24インチディスプレイ一体型ゼロクライアント端末を設置。座った席でログインするだけで自身の仮想デスクトップが利用できる。足元がスッキリしていることに感心する見学者が多い
コラボレーションエリアには42インチ大型モニタとゼロクライアント端末、可動式ホワイトボードを設置(会議室も同様)

 単純なことだが、画面が大きいため見やすく、マルチウインドウも活用しやすい。それにより、作成資料の内容確認のためのプリントが減り、会議もほとんどがペーパーレスになった。大きなディスプレイは、生産性の向上や紙の削減に大きな効果を発揮している。

 実際に使ってみると、とても便利で昔には戻れない。でも、一つだけ困ったことがある。会議で「その資料は、今日は持ってきていません」という言い訳が一切通用しなくなったことだ。

 また、UCの機能も導入した。最も効果を発揮しているのはWeb会議だ。会議室やコラボレーションエリアの大画面ディスプレイ上で、PowerPointやExcelの資料を複数の遠隔地と共有しながら会議ができる。相手側は、インターネットに繋がるPCやタブレットがありさえすれば参加できる。

 これもとても便利で、会議のために移動する必要がなく、一緒に文書の編集もできるので、誤解も生じない。しかし、これにも困ったことがある。海外出張中でも、「ホテルでインターネット使えますよね」と場所に関係なく、会議の召集がかかることだ。

 以上、クオリカが構築した次世代オフィスの概要、考え方、メリット等について述べた。次回からは、活用したICT技術のそれぞれにフォーカスして、選定理由や導入プロセス、生じた課題、工夫、利用の実態などについて紹介していこう。

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