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中小企業のサーバ仮想化、導入時の注意点とはITRのシニアアナリストが解説(2/2 ページ)

» 2013年04月03日 10時00分 公開
[生熊清司(ITR),ITmedia]
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重要となる仮想化対象の選択とキャパシティ計画

 サーバ仮想化の導入を考える場合、重要となるのは仮想化対象とキャパシティ・プランニングである。ベンダのWebサイトを見ると、仮想化のメリットの1つに柔軟なリソースの活用が挙げられている。例えば、アプリケーションAに対する処理性能が足りなくなった場合、処理能力に余剰がある別のサーバに処理を継続したまま移動できるというもので、ライブマイグレーションと呼ばれている。確かに、ハードウェアリソースの利用効率を向上できる優れた機能なのであるが、物理的なリソースが増えるわけではないことに注意が必要である。

 サーバ仮想化は、利用されず余っているサーバのCPU処理能力の利用率を上げるという目的のソフトウェアである。従って、物理サーバの処理能力が余っていなければ、導入する意味はない。例えば、サーバのCPU性能が足りなくて、処理が遅いと感じている会計パッケージが動作しているサーバを仮想化しても、サーバ仮想化のソフトウェアもCPUを利用するので、余計に会計パッケージの処理は遅くなってしまうからである。もし、この会計パッケージをサーバ仮想化環境下で利用する場合は、より高い性能のサーバが必要となる。しかし、現在のIAサーバのCPU処理能力の向上はめざましく、アプリケーションごとに物理サーバを用意する場合も多いことから、一般的にCPU性能は余剰状態にあるシステムが多い。

 サーバ仮想化によってサーバ統合を行う場合は、現在利用している対象サーバの性能情報およびリソース消費量(CPU、メモリ、I/Oなど)を計測し、需要予測を行った上でキャパシティ計画を描くことが基本であり、それによりサーバ台数の削減が約束される。キャパシティ分析は、ピーク特性の把握や性能劣化によるボトルネックの特定にも役立つ極めて有益な取り組みである。しかし、サーバ仮想化を導入しても、キャパシティ分析に基づく設計やサイジングが不十分であり、導入後も余剰リソースを抱えている、ピーク性能を合理的に吸収できないなどの例が少なくない。

ストレージが導入課題に

 サーバ仮想化の導入において、ストレージが課題となることに疑問を持つかもしれないが、実は中小企業におけるサーバ仮想化の導入ではストレージが重要となる。サーバ仮想化において、先に説明したライブマイグレーション機能を利用するためには、共有ストレージが必要となる。ライブマイグレーションが利用できない場合、サーバ仮想化しても1台の物理サーバ内での仮想化となるので、複数サーバでの利用効率の向上や、可用性の向上などサーバ仮想化のメリットが十分に享受できなくなってしまう。

 共有ストレージを用意すればいいのであるが、残念ながら、サーバに内蔵されているディスクをそのまま共有ストレージとして利用することはできない。SAN(ストレージ・エリアネットワーク)やiSCSIに対応したネットワークストレージが必要となり、その価格が数百万円から数千万円と高価であったために、中小企業が導入するには高いハードルとなっていた。

 しかし、最近では内蔵ディスクを共有ストレージ化する「VMware vSphere Storage Appliance」や「StorMagic SvSAN」などのソフトウェアが登場している。「Microsoft Windows Server 2013」に同梱さえている「Hyper-V 3.0」も同等の機能が用意されている。また、バッファローからVMwareの承認を得たiSCSI対応ストレージが提供されており、2テラバイトで16万円、8テラバイトで60万円という安価だ。これらを利用すれば、中小企業でも手軽にライブマイグレーション機能を利用できる。

 百聞は一見にしかずということで、これまでサーバ仮想化を利用してこなかった企業は、サーバ仮想化によって何が可能であるかを知るために、テスト利用することを勧める。

 幸い、サーバ仮想化ソフトウェアベンダー各社とも試使用の無料ソフトウェアや無料セミナーを用意している。テストであれば高性能なサーバでなくても十分利用できる。またテスト用のサーバがない場合はレンタルするという方法も考えられる。

 導入前に機能を確認し、導入目的を明確化する。そして、キャパシティ計画とコスト試算を実施した結果、サーバ仮想化に対して導入する価値がないと判断するのならいいが、十分な情報を持たないまま、まだ早いと考えるのはITコスト削減と機能拡張のチャンスを逃すことにつながりかねないのだ。

著者プロフィール

生熊清司(いくま せいじ)

株式会社アイ・ティ・アール(ITR) リサーチ統括ディレクター/シニア・アナリスト

大手外資系ソフトウェアベンダーにてRDBMS、データウェアハウス関連製品のマーケティングを担当した後、コーポレート・マーケティング部門の責任者、アナリスト・リレーション部門の日本代表などを歴任。2006年より現職。現在は、RDBMS、NoSQL、DWH、BIなどのデータ管理と活用に関する製品分野を担当し、ITベンダーのマーケティング戦略立案やユーザー企業の製品活用などのコンサルティングに数多く携わっている。IT専門雑誌への寄稿、セミナーなどでの講演多数。


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