祖国のためにすべてを捧げた人生――海賊とよばれた男若きリーダーが読んでおきたい1冊

「経営がどんな状況にあろうとも社員は決して馘首しない」。これは国岡鐵造の創業以来の信念であり、生き様でもあった。

» 2013年06月29日 10時55分 公開
[ITmedia]

 本書は、石油元売会社・出光興産の創業者である出光佐三をモデルに、その一生を描いた歴史小説だが、著者の綿密な取材活動と、膨大な文献の読み込みなどにより、ほぼ史実に即した内容となっている。

『海賊とよばれた男』(上) 著者:百田尚樹、定価:1680円(税込)、体裁:四六変型 382ページ、発行:2012年7月、講談社 『海賊とよばれた男』(上) 著者:百田尚樹、定価:1680円(税込)、体裁:四六変型 382ページ、発行:2012年7月、講談社

 ストーリーは1945年8月15日、日本が戦争に負けたその日から始まる。国中の誰もが失意のどん底に落ち込む中、主人公である国岡鐵造はしかと前を見据えていた。「日本人がいるかぎり、日本が亡ぶはずはない。この焦土となった国を今一度建て直すのだ。死ぬ気で立ち向かえば、必ず日本は再び立ち上がれるはずだ」。

 しかし一方で、わが身を振り返ると、国岡商店は存続の危機に瀕していた。終戦後、販売商品である石油を手に入れるルートを失い、まさに開店休業のあり様だった。加えて、戦前に大きな利益を上げていた海外拠点の資産はすべて消失し、国内の営業所も支店もない。残されていたのは莫大な借金だけだった。

 重役会議では、当然のように人員整理の声が上がる。国岡商店は1911年の創業以来、ただの一度も馘首がなかった。「人間尊重」は鐵造の強い信念であったため、同社には就業規則も出勤簿も馘首も定年もなかった。これは絶対的な不文律だった。しかし、今回だけは事情が違うと重役たちが意見を述べる中、鐵造は怒りをあらわにして一喝する。

 「国岡商店の事業はすべてなくなった。残っているのは借金ばかりだ。しかしわが社には、何よりも素晴らしい財産が残っている。一千人にものぼる店員たちだ。彼らこそ、国岡商店の最高の資材であり財産である」

『海賊とよばれた男』(下) 著者:百田尚樹、定価:1680円(税込)、体裁:四六変型 366ページ、発行:2012年7月、講談社 『海賊とよばれた男』(下) 著者:百田尚樹、定価:1680円(税込)、体裁:四六変型 366ページ、発行:2012年7月、講談社

 「店員たちを海外に送り出したときのことを忘れたのか。彼らは国岡商店が骨を拾ってくれると思えばこそ、笑って旅立ってくれたのではないか。そんな店員たちを、店が危ないからと切り捨てるなどということはできん」

 そしてまた、鐵造は戦時中、徴兵で戦地に送り込まれていた社員の家族に対し、自らの私財を投げ打って給料を送り続けていたのだ。鐵造にとって社員は“真”の家族であり、彼らを見捨てることは決してありえなかった。

 このように、鐵造には自らのために会社を大きくしたり、利益を追求したりするという考えは毛頭なく、あくまでも他人ありきだった。人のため、国家のために自分は何ができるのか、どんな役に立てるのか、それだけを純粋に突き詰めて考え、生きた。

 従って、その貫いた信念が妨害されるのであれば、いかなるものとも逃げずに戦った。それが、国内の大手ライバル会社であれ、巨大国際石油資本のメジャーであれ、GHQであれ、イギリス政府であれ――。

 本書はある一人の経営者の生涯をただ綴っただけの物語ではない。長引く景気低迷から抜け出せない日本企業において、安易なリストラや私利私欲に目がくらんだ経営者の不祥事などが横行する今だからこそ、次代を担う若きリーダーたちには本書を通じて「人間力とは何か」を学んでもらいたい。

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