“過度な期待”から実用フェーズへ ビッグデータ活用に動き始める企業たち

企業でのビッグデータ活用が注目されるようになって久しいが、「自社にとってのメリットが分からない」といった声が上がり続けてきたのも事実だ。だが現在、“現実的”なデータ活用に向けての動きが生まれつつあるという。

» 2013年07月10日 08時00分 公開
[取材・文/編集部,ITmedia]

 「ビッグデータに対する日本企業の期待は一巡し、“ビッグデータとは何か”を知るフェーズから、自社にとってのメリットを具体的に考え行動するフェーズに移った」――こう話すのは、日立製作所でビッグデータ関連製品の販売戦略を統括する稲場淳二氏だ。

 企業でのビッグデータの活用が本格的に注目されるようになって久しい。その期待は、新商品・サービスの開発から、マーケティング活動の強化、新規事業の創出まで多岐にわたる。だが一方で、多くの企業からは「どんなデータを活用すればいいか分からない」「そもそも自社にとってどのような価値があるか分からない」といった声が上がり続けてきたのも事実だ。

 「およそ1年前は『それまで集めていなかったデータを収集、分析することで、新規事業を創出したい』といった“過度な期待”の声も多かった」と稲場氏は振り返る。だが現在、ユーザー企業の意識が変わりつつあるという。ビッグデータという概念が一般化した今、日本企業の間に生まれつつある新潮流を聞いた。

ビッグデータへの期待は“非IT部門”の業務改善へ

 「もともと一定量以上のデータを持っている大企業の多くは、ビッグデータ活用に関する情報収集を一通り済ませている。だがこれまでは、IT部門が業務部門の抱える課題を把握しきれず、実際に何をすればいいか分からず足踏みしてしまっているパターンが多かった」(稲場氏)

photo 日立製作所の稲場淳二氏(情報・通信システム社 ITプラットフォーム事業本部 事業統括本部 プラットフォーム販売推進本部 販売戦略部 担当部長)

 こうした課題を踏まえ、企業のビッグデータ活用への取り組み方は過去1年で変化してきたという。稲場氏によると、2012年頃はIT部門が単独でビッグデータ活用に関心を抱く場合が多かったが、今ではプロジェクトメンバーの中に経営部門や企画部門も加わり、いわば全社横断的にビッグデータ活用に取り組むケースが増えてきたとのことだ。

 実際、ビッグデータの活用で価値を生み出す企業も増え始めているという。日立製作所の三木良雄氏(情報・通信システム社 ITプラットフォーム事業本部 事業統括本部 企画本部 担当本部長)によると、特に取り組みが早いのは、日常業務を通じて既にさまざまなデータを持っている流通・小売事業者だ。例えば流通業のある企業では、POSデータやSNSのデータなどさまざまなデータを複合的に分析することで、顧客の興味関心の変化を早い段階で察知し、新たなコミュニケーションチャネルを構築したりするのに役立てているという。

 「流通業の場合、早期からデータマイニングに取り組んできた企業が多いため、ビッグデータの活用にも取り組みやすいようだ。従来のデータマイニングはPOSデータなど単体のデータ分析にとどまっていたため、顧客の“購買活動後”の動きしか見えなかったが、今ではSNSデータなど多種多様なデータを組み合わせて分析し、“購買前”の動きも分かるようになりつつある」(三木氏)

photo 日立製作所の三木良雄氏(情報・通信システム社 ITプラットフォーム事業本部 事業統括本部 企画本部 担当本部長)

 「ビッグデータとは、一言で表せば“業務改善”のための手段」と三木氏は話す。つまり、本業に関係のない新規事業を創出するといったことではなく、既存の業務の中で抱えている課題を解決するために多種多様なデータを活用するアプローチのことを指すという。「その企業が既に持っているデータで十分ならそれを活用し、外部のデータも必要な場合、新たに収集して活用していくことが求められるのだ」(三木氏)

 企業のビッグデータに対する期待の変化を受け、日立も過去1年でビッグデータ関連製品の商談のあり方が変わったという。従来は、統計学などに精通したスタッフを中心として顧客とやり取りすることが多かったが、今ではさまざまな業種業態に精通した「データ・アナリティクス・マイスター」を結集した「スマート・ビジネス・イノベーション・ラボ」という組織を新設し、顧客の業務改善を目的とするコンサルティングサービスを中心に提供しているとのことだ。

 「データ・アナリティクス・マイスターは“IT以前”の課題を解決する人材だ」と三木氏は説明する。まずは顧客企業の業務上の課題をリスニングし、改善につながりそうな手段を模索する。その中でITシステムの導入が必要であることが分かれば、用途に見合ったシステム導入を提案するという。

 こうした提案ができるのは「日立ならではの強み」と三木氏は話す。日立はITのほか、建設機械の製造・販売や、公益事業、家電事業など幅広い業務ドメインを持つ。そこで得たノウハウを基に、似た業種の顧客企業とやり取りすることで、業務改善に向けたデータ活用の方法を提案できるというわけだ。

 「例えば、日立がノウハウとして持っている“エレベーターの動きをスムーズにするメカニズム”を、建設機械の設計など他分野に生かしたりできる。そのために必要なデータを顧客企業がどう集めるかという点で、ITシステムの提案につながっている」(稲場氏)。具体的な提案としては、データを効率よく収集、使用できるようにするためストレージを改善したり、高速なデータベース処理エンジンを導入するといったアプローチが考えられるという。

 日立は今後、自社だけでなく他社のノウハウも生かしたコンサルティングサービスを提供していく方針だ。今年2月には、博報堂とマーケティング分野のビッグデータ利活用で協業を発表したほか、今後も医療分野などさまざまな業種に精通した企業との連携を強めていくという。

 「政府が進めるオープンデータプロジェクトなどを通じ、日本企業のデータ活用は今後ますます加速するだろう」と稲場氏はみる。日立は今後も、企業の業務改善に向けたビッグデータ活用を支援していく考えだ。

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