【第1回】このままでトップラインを伸ばせると思うな顧客マネジメント再考(1/2 ページ)

長らく日本企業はコスト削減をはじめとする“守りの経営”に徹してきた。しかし今、反転攻勢をかける時が来た。新連載「顧客マネジメント再考」では、利益創出のための新たなCRM戦略を議論する。

» 2013年07月17日 08時00分 公開
[中本雅也(アビームコンサルティング),ITmedia]

「内政」から「外交」へ

 企業のビジネス戦略上の優先事項として、ここ数年、売り上げや利益の向上、営業力強化、顧客の維持、拡大などが挙げられることが多くなってきている。これは企業の経営をつかさどるCEOCFO(最高財務責任者)CIO(最高情報責任者)などが昨今の経済情勢や経営環境の激的な変化などから、トップライン(売り上げと利益)の向上を何よりも重視している表れであろう。

 元々、企業というものがゴーイング・コンサーンをミッションとする以上、利益の確保は当然だが、振り返ってみるとこの10年以上、日本企業の利益創出策といえば、さまざまな形でのコスト削減、業務の効率化・合理化による生産性向上、ERP(統合業務パッケージ)に代表されるITへの莫大な投資による企業データマネジメント力の向上、「見える化」による管理精度の向上など、どちらかといえば内向きな施策に積極的で、何とか利益をねん出してきたと言えるのではないだろうか。 個々の企業で見れば事情は違うものの、そのほとんどが上記のような形で体質の強化を図ってきたといえる。

 このような企業が「9.11」の同時多発テロ、リーマンショック、史上まれに見る円高・株安の継続という厳しい市況の中で奮闘してきたことは言うまでもない。そして現在、アベノミクスの影響か、円安・株高傾向に振れ、経営環境の改善期待も膨らむ中、海外勢との間で繰り広げられる競争力が回復しつつあり、いよいよ日本企業復活の舞台が整ってきた感がある。

 こうした中で、企業はトップライン向上が最優先課題となる。乾いた雑巾をさらに絞るのではなく、経営資源の効果的な活用により、従来のやり方ではない新しい顧客へのアプローチを展開し、さらなる売り上げ増、利益の創出を目指していくのだ。

顧客マネジメントの重要性

 アビームコンサルティングでは、3、4年ほど前より多くの企業から新規事業戦略とその実行への支援、新商品・新サービスの開発、事業展開への支援などの依頼が急増している。

 振り返ってみると、収益性が厳しかったこの10年近く、いずれ来るであろう市況回復をにらんで企業は内部投資や体質強化に明け暮れていた。ご存じのように、特にERPの導入はブームと言ってもおかしくないほど各企業でその取り組みが進んだ。大規模にERPへ投資できる企業は限られており、そのほとんどが基幹システムをERPに代替していった。時代の要請もあり、J-SOX(日本版SOX法)対応やIFRS(国際会計基準)準備など、法制度、規制への対応も必須なことから、やむを得ない状態だったと思うが、内部投資に注力する反面、顧客接点の強化は優先度が下がっていたのも事実である。

 投資効果が分かりにくいマーケティング力アップや営業力向上といった分野に関しては、広告代理店への費用抑制や業務改善レベルのSFA(営業支援ツール)導入くらいで、売り上げ、利益に直結する具体的な対策はまちまちだった。しかし、潮目は変わりつつある。トップラインを伸ばすためには、従来の製品や市場で戦っても無理である。

 また顧客(消費者や企業)も購買経験を高める中で製品やサービスへの期待値が高まり、購買動機が多様化するなど、以前にも増して顧客の複雑化が進行している。このように、新事業の戦略には今までにも増して顧客の理解が必要であるし、他社よりもその事業のターゲットとなる顧客像を明確に持っていないと成功することはない。

 このような背景から、従来にも増して顧客に対する正確な理解と、それに呼応するかのような新時代の顧客セグメンテーション、そしてセグメントごとに効果的な製品やサービスを設定し、具体的な顧客へのアプローチを実践していかなければならない。これは何も新事業だけではなく、既存の事業においても同様である。それだけ市場は厳しくなってきており、他社よりも一歩も二歩も顧客に近づく戦略が必要なのである。まさに、これからの時代は“顧客マネジメント力”が重要で、その巧拙により企業経営が左右されるのである。

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