【第1回】企業がタレントマネジメントを成功させるためには?一から学ぶタレントマネジメント戦略(2/2 ページ)

» 2013年07月31日 08時00分 公開
[森井茂夫(プライスウォーターハウスクーパース),ITmedia]
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タレントマネジメントに重要な2つのサイクル

 では、個々の企業において、タレントマネジメントはどのように進めていけばよいのでしょうか。図2に示す2つのサイクルを意識することがポイントです。

図2 タレントマネジメントにおいて意識すべきサイクル 図2 タレントマネジメントにおいて意識すべきサイクル

 企業ごとに事業戦略が異なるように、成功に必須となる人材も一様ではありません。自社にとって、どのような人材がいつまでに何人必要なのかという目標(ゴール)を定めることが最初の一歩です。目標を明確にした上で、それに向かって育成などを行い、その結果が当初の目標を達成できたか、さらには人材目標を達成できたとして、それが事業の成長に貢献できたかを評価します。目標設定と評価が外側のサイクルです。

 タレントマネジメントというと、「9ボックス」に代表されるように、能力と業績を二軸としたマトリックス上に社員を配置してみたり、条件に合う社員を検索、照会するためにさまざまな情報を集めてデータベースに蓄積したりということがありますが、明確な目標の設定なくして、このような取り組みを行っても大きな成果は得られません。

 目標設定のポイントは、最も重要な部分から小さく始めるということです。企業内の部署、階層で人材ニーズのないところは少ないでしょう。それらをすべて受け入れてしまっては、従来の人事管理と変わらないものになってしまうか、情報集めやシステム構築に多大な労力がかかってしまい、失敗するリスクが高まります。

図3 人材管理のパターン 図3 人材管理のパターン

成功のために欠かせない重要な要因という意味で「Critical Success Factors」という言葉がありますが、事業を成功に導くために不可欠である重要な人材、「Critical Success People」に焦点を絞って手を付け始めることを勧めます。

 グローバルに事業を展開する企業では、図3に示すような人材をターゲットとして始めるケースが多いです。経営層の後継確保が重要課題であれば【B】、ITベンチャーで、新しい技術を生かした製品開発が利益の源泉という場合には、ITエンジニアにもフォーカスした【C】のような形となるでしょう。【D】のケースは、弁護士事務所やコンサルティングファームなどのプロフェッショナル企業で行われることが多いです。

情報の標準化と業務機能の連携がカギ

 目標を達成するために回されるものが、採用/異動、育成、評価、報酬という図2の内側のサイクルです。これら業務の基盤であり、相互連携の要となるものが社員プロファイルなどとも呼ばれる人材情報データベースです。

 何を行うにしても現状がどうなっているのか分からなければ前に進みません。タレントマネジメントにおいてまず着手するのは、このデータベース構築=人材情報の整備です。ここでのポイントは情報の標準化です。例えば、日本の課長とフィリピン子会社のバイスプレジデントとではどちらが偉いのか、人事考課の結果をどのように比較すればよいのか、マグネシウム系部品の金型鋳造技術を持つ人材はどこにいるのかなど、等級や評価、スキル体系などを統一しておかないと情報を集めたところで使い物になりません。

 4つの業務機能はこのデータベースを核に連携して動くことで大きな効果を発揮します。今回は特定ポジションや経営幹部の後継者を計画的に育成するサクセッションマネジメントを例にその動きを見てみましょう。

 起点は「評価」機能です。評価対象となるのは、後継者を考える“ポジション”と、後継者となり得る“人材”の2つです。評価というと、人の能力や業績を測るイメージがあるかと思いますが、サクセッションマネジメントにおいて行うべきは、CEOや営業担当役員といった対象となるポジションに就くために必要な知識、スキル、経験やその責任、権限などを明確にするポジション評価です。

 そこから抽出された人材要件に基づいて人材を評価し、後継候補者を選抜します。人材の絞り込みには、前回の評価結果や人事考課、社内認定、資格、職務歴など、さまざまな人材情報が使われますし、最新の評価結果もまたデータベースに格納されます。

 候補となった人材に対する「育成」は、人材要件とデータベースにある現状能力とのギャップを埋めるための教育プログラムが段階的に計画、実行されます。また、後継者としての能力の伸長は、どれだけ良質な経験を積ませるかにかかっており、「異動」についてもこのギャップやキャリアパス、本人の志向や制約条件を考慮して戦略的に行われます。教育の進行状況や異動先でのパフォーマンスは定期的に評価され、それに基づいて昇給昇格などの「報酬」が決定され、モチベーションが刺激されます。

 人事情報システムの観点から見ても、タレントマネジメントシステムの特徴は人材情報を核とした機能の連携にあります。これまでにもラーニングマネジメントシステム(LMS)と呼ばれる育成管理システムや目標管理などを回す評価管理システムはありましたが、最近のITシステム製品はこれらが一体化している点が特徴です。

 次回はこのシステムの構築と運用のポイントについて考察します。

著者プロフィール

森井茂夫(もりい しげお)

プライスウォーターハウスクーパース株式会社 ディレクター

コンピュータメーカー、シンクタンクを経て、2001年より現職。国内外の企業に対し、人事施策の企画、設計から運用プロセス、情報システムの導入まで、一貫したコンサルティングを実施。


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