マネジメント視点でみたMicrosoft・バルマーCEOの退任表明松岡功のThink Management

Microsoftのスティーブ・バルマーCEOが退任の意向を表明した。この動きをマネジメントの視点で考えてみたい。

» 2013年08月29日 08時00分 公開
[松岡功,ITmedia]

強い危機感の表れでもある「One Microsoft」

 米Microsoftは8月23日(現地時間)、スティーブ・バルマーCEOが今後1年以内に退任することを発表した。パソコン市場で圧倒的な存在感を示してきた同社だが、スマートフォンを中心とするデバイスのモバイル化の波に乗りきれない中で、ソフトウェア会社から「デバイスとサービスの会社」への事業モデルの転換を新CEOに託す。

米Microsoftのスティーブ・バルマーCEO 米Microsoftのスティーブ・バルマーCEO

 バルマー氏はこの発表に際し、「デバイスとサービスの会社に移行する過程で退任しようと考えてきた。新たな方向に進むため、長期的に取り組める新しいCEOが必要だ」との声明を出した。

 Microsoftの新CEOにはこうした新たな事業モデルへのチャレンジとともに、従業員数9万7000人、連結売上高778億ドル(2013年6月期)のグローバル企業をしっかりと運営するマネジメント能力が求められる。本稿では特にマネジメントの視点で、今回の動きから2つの点に注目してみたい。

 まず1つは、バルマー氏が今回のCEO退任表明に先立ち、7月に大規模な組織改正を断行していることだ。具体的には、これまで製品ごとに分かれていた部門を機能ごとに再編したもので、すべての部門がすべての製品に貢献できる環境づくりを図った格好だ。

 その際、バルマー氏は「One Strategy, One Microsoft」というスローガンを打ち出し、「ばらばらな戦略の寄せ集めではなく、ひとつの会社として、ひとつの戦略の下に集う」ことを強調した。組織の壁を作らず、CEOが経営の隅々にまで目を光らせることができるようにしたといえるが、裏を返せば、会社も戦略もばらばらな現状を憂う同氏の強い危機感の表れでもある。

 ただ、バルマー氏は今回のCEO退任表明に際し、7月の組織改正について、「今はMicrosoftにとって重要な時期だ。新しい幹部は素晴らしいし、戦略は第一級だ。機能とエンジニアリング領域にフォーカスした新組織は未来の機会と挑戦に最適だ」と自信に満ちた声明を発している。

 もちろん、経営トップとしてはこうした声明を自信に満ちて発することが重要だが、同氏としては恐らく組織改正を断行する際に、次代へ託す思いがあったのではないかと推察される。

注目される「新CEO誕生物語」

 もう1つの注目点は、Microsoftの取締役会が今回の発表に伴って、後任CEOを選ぶための特別委員会を設置したことだ。特別委員会はジョン・トンプソン取締役が委員長を務め、ビル・ゲイツ会長ほか2人の取締役がメンバーとなる。また、ヘッドハンティング会社として米Heidrick & Struggles Internationalと契約しており、社内だけでなく社外からも候補を探すとしている。

 特別委員会のメンバーとなったゲイツ氏は声明で、「委員会の一員として、偉大な新CEOを見つけるために他のメンバーとともに尽力していく」と述べるとともに、「スティーブが、新CEOが就任するまで留まってくれるのはありがたい」と、バルマー氏からスムーズなバトンタッチが行われることを強調した。

 Microsoftの後任CEO選びで難しいのは、同社として初めて創業期のメンバーではない人物を選ぶことだ。創業者で初代CEOのゲイツ氏とバルマー氏はハーバード大学時代からの親友で、いわば創業期からのメンバー。その意味では、今回のCEO交代は同社にとって初めての世代交代となる。

 今回の件では、バルマー氏が後継者を育成できなかったと見る向きもある。後継者を育てることも経営者の重要な仕事であることからすれば、バルマー氏にもその責任はあるだろう。実際、ここ数年、同社からは将来のCEO候補との声もあった幹部が相次ぎ去っている。そうした経緯も含めて後継者育成についての同氏のコメントは今のところ聞こえてきていないが、おそらくその胸の内にしまい込んでいる思いがあるのではなかろうか。

 今回の発表以来、後任CEO候補の具体名がメディアを賑わせている。果たしてどんな人物が後任CEOになるのか。大きな関心事として、しばらく注目を集めるだろう。

 ただ、恐らく特別委員会は慎重に事を進めるのではないだろうか。というのも、最終的にどんな人物か、に帰結するにしても、その選定プロセスが非常に重要だからだ。

 どのようなプロセスでどのような意思決定を行い、その結果どんな人物を選ぶか。この選定プロセスをうまく開示していけば、ストーリーができあがる。まさに「新CEO誕生物語」である。そのストーリーが新CEOの最大の味方になるはずだ。さて、どんなストーリーをつくってみせるか。Microsoftの今回の後任CEO選びは、そんな視点でも注目しておきたい。

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