1社でモノを作る時代は終わった ERPの覇者に挑む田中克己の「ニッポンのIT企業」

複数企業が知見を結集するコンソーシアムとして設立したGRANDITは、国産ベンダーとしてERP市場のトップシェアを狙う。

» 2013年09月10日 08時00分 公開
[田中克己(IT産業ウオッチャー),ITmedia]

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 国産ERPベンダーのGRANDITが、インターネット時代のERP市場におけるトップシェア獲得に向けて活動を展開する。複数のIT企業から構成するコンソーシアム形式にしたのは、そのためだ。加入メンバーにソースコードを公開するなどして団結力を高める。コンソーシアム設立から10年が経過した今、目標達成の日は見えてきたのか。

外資系が席巻するERP市場

 GRANDITが設立された2003年ごろ、ユーザー系を含めた受託ソフト開発会社はビジネススタイルの過渡期にあった。主力事業の受託ソフト開発の需要が減る一方で、ユーザーの要求が高度化してきた。何らかの武器を持ったビジネスに変えなければ、淘汰・再編の波に飲み込まれる状況にあった。しかも、ユーザー系は親会社から外販ビジネスの強化を求められていた。そこに、同社誕生の大きな理由がある。

 もう1つの背景がある。エンタープライズ領域におけるERP市場は、外資系に席巻されていた。だが、「ERPを入れたものの、自社の商習慣に合わない。高いフィーも支払わなければならない」(山口俊昌社長)という経験をしたユーザー系IT企業の中から、「日本企業にフィットとしたERPを作ろう」との考えが芽生える。当然のことに思える。

 しかし、「1社でモノを作る時代は終わった」(山口社長)。そこで、業種・業務ノウハウを持つ複数のIT企業の知見を取り込んだERPに仕立てることにした。2003年10月に事業の推進母体として、GRANDITを設立するとともに、コンソーシアムを立ち上げた。「いわば、バーチャルカンパニーとして、団結してERPを作る」(同)。

 コンソーシアムのメンバーは現在、GRANDITの親会社であるインフォコムのほか、システムインテグレータやオージス総研、パナソニック インフォメーションシステムズ、ベニックソリューションなど13社(2013年8月時点)になる。メンバー会社はソースコードが公開されるERP製品「GRANDIT」の使用権利金と年会費を支払う。製品の機能強化やプロモーションなどに関する意見を述べたり、販売代理店になるビジネスパートナーを募ったりもできる。ただし、「GRANDIT」の知的財産はGRANDITに、業種・業務向けアドオン機能は開発したメンバー会社に、それぞれ帰属する。

ターゲットは年商100億円から1000億円

 コンソーシアムの意思決定機関である運営委員会が、メンバー会社の要求を基に標準機能に取り込む優先順位や年間のプロモーション計画などを決める。その下部組織として、プロダクトとマーケティングの2つの部会を配置する。プロダクト部会は、ユーザーの声を聞きながら機能拡張を検討する。マーケティング部会は、どんなニーズがあるのか、どう売り込むかなどを議論する。委員会、部会とも毎月開催している。

4つの標準モジュールを提供(同社サイトから) 4つの標準モジュールを提供(同社サイトから)

 メンバー各社のこうした意見を集約して開発したのが、年商100億から1000億円の中堅企業向けERP製品「GRANDIT」だ。経理・資産・経費、人事・給与、債権・債務、販売・調達在庫・製造の4つの標準モジュールから構成されている。ワークフローやBIツール、帳票といった共通機能も揃えている。この上に、メンバー各社が業種・業務の機能を開発する。実は、このERPには、住商情報システム(現SCSK)時代にERP開発に携わったシステムインテグレータの梅田弘之社長らのノウハウが生かされている。

 ユーザーは、この中から自社に必要な機能を選択する。例えば、年商1000億円企業はすべての機能を導入するが、100億円企業は一部の機能だけを使うといった具合だ。ビジネスが拡大したら、「マスクしていた機能を開放し、使える仕組みになっている」(山口社長)。しかも、「外資系に比べて、(導入・保守運用)コストは、ゼロが1ケタから2ケタ違う」(同)という。

 こうした運営体制によって、販売実績(2013年6月末)は634社、モジュール数で2760本になる。ある調査会社によると、年商100億から500億円未満のシェアは約6%だという。ERP市場のトップシェアは10%台で、20%を超えたものはないと言われているが、山口社長はシェア20%を目論む。

 同社の計画は今後5年間で、過去10年間の実績を上回る販売を獲得すること。1つの有効策が、手薄だったコンサルティングサービスの充実にある。「IT企業だけで考えるのではなく、監査法人などと組んで、コスト削減などのBPR(ビジネスプロセス・リエンジニアリング)計画を作成し、ERPをより効果的なものにする」(山口社長)。そこから得たノウハウを蓄積し、標準テンプレート化していく。現在、新日本有限責任監査法人などと提携し、業務改善やリスク管理などのサービスを提供し始めたところだ。シェア拡大のチャンスはここにある。


一期一会

 山口社長は「メーカーを頂点とする構造を覆したい」と意気込む。オフコンからC/S(クライアントサーバ)時代に移るとき、欧米ERPベンダーがシェアを獲得した。同じように、インターネット時代に相応しい新しい商品を創出すれば、覇者になれる。山口社長はそう確信し、「GRANDIT」の機能とマーケティングの強化を図る。幸い、「GRANDIT」は当初からWeb対応になっており、クラウド環境で利用できる。事実、プライベートクラウドで使うユーザーはいる。さらに、共同利用型クラウドへと広げることを検討する。

 国産ERPベンダーとして、最後発とみられるGRANDITは生き残った。ERPは、他ソフトより実績を重視される商品と言われている。「派遣を含めた社員約60人の当社だが、その何十倍ものGRANDITユーザー人口がいる」(山口社長)。今後、その力をいかに結集できるかが成否のカギを握っている。

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