「インターネットの父」ヴィントン・サーフ氏が語るインターネット40年と未来Computer Weekly

インターネットの父であり、Googleのチーフインターネットエバンジェリストのヴィントン・サーフ氏に、ハッキング、プライバシー、IPアドレスなどの問題について話を聞いた。

» 2013年09月25日 10時00分 公開
[Cliff Saran,ITmedia]

 1973年9月10日、ヴィントン・サーフ氏は英サセックス大学において、未来に大きな影響を及ぼすことになる研究を初めて公に発表した。現在のインターネットを形成する基になった研究だ。

 サセックス大学で開催されたINWG(国際ネットワーク作業部会)の特別会議において、サーフ氏は共同執筆者のロバート・カーン氏と共に、複数のネットワークを1つにまとめたネットワークでの通信方法についての文書「A Protocol for Packet Network Interconnection」(パケットネットワークの相互接続プロトコル)を配布した。

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 TCP/IPによって実現される、この“複数のネットワークから成るネットワーク”が、現在のインターネットである。それから40年がたとうとしている現在、インターネットプロトコルのTCP/IPが、現代社会のあらゆる領域にどれほど深く浸透しているかは測り知れない。そして、このトレンドは、さまざまな機器がネットワークに接続された「モノのインターネット(Internet of Things)」という形で、驚異的な規模でさらに拡大しつつある。

IPアドレスの枯渇

 「私が心配しているのは、アドレス空間が32ビットであることだ。これでは43億個の終端しかサポートできない。1973年当時はそれで十分だと思ったが、2011年にもともとのインターネットアドレスの在庫は枯渇した」とサーフ氏は話す。では、なぜ、1998年にIETFが128ビットのインターネットアドレス空間を採用して43億個から340澗個(340兆の1兆倍の1兆倍)の端末をカバーできるほど拡張されたのに、インターネットはIPv6に移行していないのか? 「IPv6は普及していない」というのがサーフ氏の答えだ。IPv6対応のソフトウェアはOSやルータにインストールされているが、「ISPがIPv6の対応に消極的だ。インターネットアドレス空間を拡張する手段はIPv6以外にないため、これは絶えず問題になっている」とサーフ氏は説明する。

 サーフ氏は、ネットワークアドレス変換(NAT)は、インターネットアドレスを便宜的に増やす手段でしかなく、「NATは構造的にもろい」とする。1000万個程度のアドレスが割り当てられている通信事業者は、NAT以外に拡張できる手段がないのでNATを使い続けているが、サーフ氏に言わせれば、やはりNATは適切なソリューリョンではない。「なぜNATが使われたかは理解できる。しかし、NATによってアドレスをカスケードするのは、確実に大惨事を招く。われわれはIPv6に移行するよう精力的にロビー活動をしていて、成果も出ているが、なかなか先に進まない」

国家支援のハッキングとセキュリティ

 インターネットの父へのインタビューで、プライバシーとセキュリティの話をしないわけにはいかない。

 サーフ氏は、2002年の「The internet is for everyone(万人のためのインターネット)」(訳注)の中で、「インターネットは万人のものである。しかし、その利用者が自身のプライバシーとトランザクションの機密性を確保できなければ、そうはならない」としている。

訳注:RFC 3271のこと(日本語訳)。

 サーフ氏のこの懸念は変わっていない。「独裁政権は、YouTubeなどのWebサイトをブロックしている。コンテンツの削除やフィルタリングを試みたり、ユーザーを犯罪者扱いしようとする国は驚くほど多い。そういった国ではブロガーは監獄に入れられ、Facebookの“いいね”ボタンを押したら、反体制者だと見なされることもあり得る」

 最近、PRISM(アメリカ国家安全保障局が運営する通信監視プログラム)の存在が暴露され、主権国家がどの程度インターネットをコントロールしようとしているかが明らかになった。しかし、サーフ氏は、より広義のハッキングコミュニティーの方が、国家支援のハッキングよりもはるかに大きな問題だという。「ハッキングを実行できるのは国だけではない。OSに侵入し、ブラウザを悪用する巨大な力を個人が有している。少人数のハッカーグループがボットネットをコントロールできるため、かなり厄介だ。個人のハッカーに、さまざまな問題を引き起こす力がある」

 インターネット研究者がハッキングをコントロールし、インターネットが安全だと見なせるようになるまで後10年、インターネットが50周年を迎えるまで待たねばならないかもしれない。サーフ氏は次のように語る。「ハッカーはソフトウェアのバグを突いてくるため、セキュリティが完全に解決されることはないだろう。しかし、セキュリティのメカニズムを強化するシステムを設計することはできる。それらを組み合わせて、攻撃の阻止に有効な対策を生み出せるだろう」

オープンであることの威力

 インターネットプロトコルは、1960年代のIBMから現在のAppleとGoogleまで、ITの巨人たちの栄枯盛衰を横目に、ITの巨人たちが決して成し得ないであろう完全な普及を果たした。ここまで普及できたのはなぜか? 「インターネット標準は全て無償で提供されている。インターネット標準化団体がライセンスを求めることはない。自由に実装できることが大切だ。オープンプロトコルを基にプロプライエタリソフトウェアを開発しても、何の問題もない」

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