【第2回】ヒットと失敗の明暗を分ける意外な罠とは?Ameba初代プロデューサーが語る “燃焼系”プロマネ論(2/3 ページ)

» 2013年10月03日 08時15分 公開
[山崎ひとみ(サイバーエージェント),ITmedia]

コンセプトの「ひろがり」を意識する

 tappieでの失敗を糧に、「きいてよ!ミルチョ」では、プロデューサーとしての視点を特に意識してサービス設計しています。

 きいてよ!ミルチョとは、独り言をひたすらキャラクターにつぶやくコミュニティーという斬新なコンセプトに基づいて立ち上げたものです。独り言コミュニティーと聞くと、最初は誰もが「完全匿名性で言いたいことを言えた方がいい」という方向性を思いつきますが、あえてそれをせず、Ameba IDに登録されているニックネームでしか独り言を言えないようにしました。

 そして、独り言を聞くために生まれてきたという設定のキャラクター「ミルチョ」につぶやくと、実はミルチョを使っている「すべてのユーザー」に自分の独り言が共有され、いつの間にか独り言を通じたユーザーコミュニケーションが生まれる設計になっているのです。

 これによって、「誰に聞いてもらうでもないが、誰かに聞いてほしい独り言」をつぶやいたユーザー同士が、お互いに聞いてもらったことへの感謝の気持ちを通じて継続的にコミュニケーションを構築していくという、新しい形態のサービスを作ることができました。「奇跡のようなバランス」と言われた機能設計ですが、これは「ユーザーニーズに100%向き合っただけだとサービスは拡張しない」というtappieでの教訓を強く意識して開発した結果でした。

「背景の対話」が強いチームを作る

 tappieの失敗は、チームビルドに関しても結果的に学ぶことがありました。それは「隠さずに背景を伝えることで、強いチームが作れる」ということ。プロジェクトを率いていく上で、事業体を大きくすることはもちろんなのですが、同時に強いチームを作ることが重要です。

ミルチョのプロジェクトメンバーたちと。戦闘力の高いチームになりました ミルチョのプロジェクトメンバーたちと。戦闘力の高いチームになりました

 なぜなら、立ち上げが仮にうまくいったとしても、事業というのは必ず、いい時も、悪い時もやってくるからです。中長期的な視点で事業を成長させていきたいのなら、どんな苦境でも乗り越えられる強いチームであることが何よりも武器になります。

 そうしたチーム作りの第一歩として、今プロジェクトが立っている位置、求められている成果、そのために抱えているリスクなどを、ポジティブな面だけでなく、ネガティブな背景も含めて対話をする意識を持つことが大切です。

 リーダーは常に成果を求められますし、そこを目指す上で伴うポジティブサイドとネガティブサイドのリスクを見ながら舵取りをしている方がほとんどでしょう。そうした至難を乗り越えていくためには、「チームの高い士気」が不可欠です。多くのリーダーは士気を維持しようと、いつでもポジティブに楽しくチームを引っ張っていきたくなる誘惑が起こります。

 また、責任感が強い人ほど、「ここまで頑張りましょう!(あとは私が責任をもちます!)」と、ネガティブな背景をメンバーに見せずに一人で抱え込みがちで、いざうまく行かなかったときに、チームの士気がもたなくなるというケースをよく見ます。

 最後には自分がすべて責任を持つという覚悟があるのは素晴らしいことで、それがなければリーダーとは呼べません。ただしその上で、プロジェクトのネガティブな面もできるだけチームメンバーに伝えることが重要です。ポジティブな士気と危機感をセットにすることで、チームの戦闘力は今までより格段に上がるはずです。なぜならいろいろな個性はあっても、チームは一人一人皆が成功したいし、そのために一緒に戦いたいと思っているからです。

 tappieがサービス終了の危機に対峙していたとき、この対話を意識したことで、最後の半年ほどは限られた人数でこれ以上できないというほどの規模のシステム改修に取り組めました。そして、その改修をもってしても立ち行かなくなったとき、開発チームの全員がその結果に納得して、別のプロジェクトへの異動を快諾してくれました。tappieを開発したチームメンバーの多くは今、スマートフォン向けブログコミュニティー「Simplog」の開発者として大活躍しています。

 一方、その後に同じスタンスを心掛けて携わった、きいてよ!ミルチョのチームは、サービス規模が大きくなり、リーダーだった私が抜けた後も全くスピードを落とすことなく、地道な運用と大規模なサービス改修を両軸でこなし続ける強いチームになっています。

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

注目のテーマ