「ロイヤリティプログラムを展開したいとずっと思っていたが、単なるポイントプログラムはつまらないと感じていた」とブルボニエ氏は語る。STM入社前にはAir Canadaでラウンジなどを手掛けた経歴を持ち、ユニークな顧客サービスを展開したいというこだわりがあった。
同時に、モントリオールのあるケベック州のプライバシー法は北米で最も厳格と言われており、顧客データの取り扱いは大きな課題だった。Opus導入から数年間、なかなかロイヤリティプログラムに着手できずにいたブルボニエ氏は、CRMやERPなど基幹システムで取引関係のあるSAPに相談した。ここから、SAPが顧客と一緒にイノベーションをする「Co-Innovation」プロセスが始まる。2012年6月のことだ。
STMとSAPから数人が集まり、SAPオフィスで数週間のデザインシンキングを行った。この過程でOne to Oneマーケティング、Opusの体験をもっと改善するようなサービス、顧客に価値を与えるサービスなどをキーワードに話し合い、アイデアを明確にしていった。
SAP側の担当者、エルベ・プルーシェ氏(Precision Marketing担当バイスプレジデント)は、「誰も興味がないイノベーションを構築しても無意味だ。われわれはイノベーションにコミットしているユーザーと一緒にソリューションを開発することを大切にしている」と、デザインシンキングを重視する理由を説明する。早期からプライバシー面をチェックする弁護士やパートナーも参加し、何がしたいのかを理解してもらったという。
このような段階を経て、2012年秋、SAP Precision Marketingを利用したモバイルアプリプロジェクトの概要を固めて、2013年5月のパイロットローンチにこぎ着けた。プライバシーの懸念については、STM側にミッションクリティカルな情報(Opusカードの個人情報、購入した運賃などの情報)を格納するデータベースを、そしてSAPがドイツに持つデータセンター側にユーザーの好みなどそのほかの情報を格納することで解決した。
ドイツのデータセンターではID番号のみでOpusとの紐付けはできない。ユーザーがクリックすると、2つのデータベースから情報が引き寄せられデータがマッチするが、マーケッターは個人を特定できず、属性で行動パターンを追跡することになっている。
ユーザーはOpusカード情報を入れなくても利用できるし、位置情報利用を拒否することも可能だ。自分が提供してよいと思う情報のみでも利用できる。これなら、プライバシーに敏感なユーザーも抵抗が少なそうだ。STM Merciをダウンロードした約1万8000人のうち、半分がすべての情報(Opus番号、年齢層、家族構成、好みなど)を入力したという。当初の予想を上回る高いエンゲージ率になった、とブルボニエ氏は胸を張る。
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