最近の企業不祥事に見るマネジメントの教訓松岡功のThink Management

このところ、利用者や消費者の信頼を裏切る企業不祥事が相次いでいる。これらの出来事から浮かび上がるマネジメントの教訓とは――。

» 2013年11月07日 08時00分 公開
[松岡功,ITmedia]

さまざまな業種で相次ぐ企業不祥事

 カネボウ化粧品の白斑問題、JR北海道のレール異常放置、みずほ銀行の暴力団員融資問題、ヤマト運輸に端を発した荷物のずさんな温度管理、そして阪急阪神ホテルズに端を発した食材の虚偽表示……。このところ、さまざまな業種で利用者や消費者の信頼を裏切る企業不祥事が相次いでいる。これらの出来事からは、マネジメントにおいて共通する問題点が浮かび上がってくる。

 カネボウ化粧品の白斑問題は、同社が2008年以降に発売した美白化粧品の利用者に、肌がまだらに白くなる「白斑」の発症が相次いだ出来事だ。今年7月に自主回収を発表したことで発覚した。2011年以降、発症事例が相次いでいたものの、同社は当初、病気などと判断して適切な対応を取らなかった。白斑の被害者は現在1万5000人超。対応の遅れが指摘されている。

 JR北海道のレール異常放置は、9月に函館線で起きた貨物列車脱線事故の調査を機に、レールの幅などの異常を放置してきた箇所が270件に上ることが明らかになった問題だ。さらに、非常ブレーキが利かない状態の特急が3カ月も営業走行していた疑いなども発覚した。レール異常の情報は現場部署内でさえ共有されていなかった。本社はチェック機能を果たさず、経営陣は不祥事の原因把握もおぼつかない状況が続いている。

 みずほ銀行の暴力団員融資問題は、金融庁が9月、同銀行に対し、暴力団員など反社会的勢力との取引を把握しながら2年以上、事実上放置していたとして、業務改善命令を発動したことで浮かび上がった。立ち入り検査の結果、グループの信販会社などを経由した提携ローンで相当規模の不正取引が発覚。事後対応の不備も重なって行政処分につながった。この問題については、10月10日掲載の本コラム『「One○○○」を掲げる企業の落とし穴』でも取り上げているので参照いただきたい。

 ヤマト運輸に端を発した荷物のずさんな温度管理は、同社が10月下旬、鮮魚などを低温で運ぶ「クール宅急便」のサービスで、全国約4000カ所の営業所のうち、約200カ所において社内で定めた温度管理のルールを守れていなかったことを明らかにした。6月に大手スーパーから荷物の温度が大きく上昇する時間があったことを指摘されていたが、同社は営業所に対してルールの徹底を通達しただけにとどめており、対応の甘さが問題視されている。それと同時に、作業現場の過酷な状況も浮き彫りになった。さらにこの問題については、日本郵便も同様の状況であることが明らかになった。

ドラッカーが説く「真摯さ無くして」を教訓に

 そして今、最も世間を騒がせているのが、阪急阪神ホテルズに端を発した食材の虚偽表示である。阪急阪神ホテルズがメニュー表示と異なる食材を使っていた問題をきっかけに、不適切なメニュー表示が各地のホテルや飲食店、さらには大手百貨店の食品売り場でも次々と明らかになっており、全国に広がっている。対象となる食材は牛肉やエビなどが目立ち、高価な品種を安価なもので代替していた格好だ。

 食材の虚偽表示は消費者の信頼を裏切るばかりでなく、違法行為となる可能性もある。景品表示法は故意か過失かにかかわらず、実際より著しく優良と消費者を誤認させる「優良誤認」を禁じており、消費者庁が適用の可否を検討しているという。

 そうした消費者の信頼を裏切る行為、さらには違法行為となる可能性を払拭するかのように、問題を公表した企業のトップは記者会見などで「偽装ではなく誤表示」などと強調した。だます意図はなく、担当者の意思疎通が不十分だったなどと弁明する姿が目立った。しかし、そんな弁明は世間に通用しない。「どうせ味など分かるわけがない」と、消費者をあなどる意識が横行していたのではないか。そう疑わざるをえないほど、今回の問題は消費者の信頼を大きく失墜させたと、関係者は肝に銘じるべきである。

 さて、こうした最近の企業不祥事から、マネジメントにおいて共通する問題点として浮かび上がってくるのは何か。まずはコンプライアンスの欠如が挙げられる。専門家によると、コンプライアンスとは「法令順守」だけでなく、それをもとに世間からの信頼に応えること、さらには従業員が気持ち良く働けるようにすることも含まれるという。そう考えると、大切なのはルールではなく従業員の意識と企業風土を変えることにある。

 では、そのために経営者は何に注力すればよいのか。最も注力すべきは、社内の風通しを良くすることではないだろうか。例えば問題に素早く対処する危機管理も、社内の風通しの良さが原点になると考える。そのためには経営者自らも変わっていかなければならないことを心得ておく必要があろう。

 もう1つ、最近の一連の企業不祥事に共通するものとして、筆者の頭の中にマネジメント分野でつとに有名な一言が思い浮かんだ。それは、経営学の父であるピーター・ドラッカーがマネジメントの基本として説いた「真摯さ無くして組織無し」である。ドラッカーは「真摯さ」をマネージャーの資質として挙げているが、真摯さは業務への姿勢、すなわち顧客への対応に通じるものだと考える。

 真摯であれ。一連の不祥事から改めてこの言葉を教訓としたいものである。

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