死蔵状態から全社展開へ、社員が育てた三城HDのiPad活用文化基幹システムにもつなげる(2/2 ページ)

» 2013年11月19日 08時00分 公開
[國谷武史,ITmedia]
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社員の手で作った文化

 同社ではiPad活用をリードする「社内エバンジェリスト」を3回に分けて全国から募集した。社員やパートなど職位や年齢、性別、ITリテラシーの度合いに関係なく、全体で約350人を起用している。募集ではiPadの活用方法や効果を提案してもらい、優れた提案をした社員を選出した。なお、店舗などのIT担当者を敢えて選考から除外している。「単なるガジェット好きでは個人の趣味に走ってしまいがち」(河村氏)からだという。

 エバンジェリストにはiPadが支給され、仕事やプライベートで自由に使ってもらいながら(Apple IDのみ同社のもの)、日々気が付いた点や業務での活用アイデア、接客時の利用事例、トラブル事例と対処方法といったさまざまな情報をFacebookの社内専用ページへ自由に投稿してもらった。

 さらにこれと並行して、河村氏のチームではエバンジェリストと個別にもFaceTimeを使ってビデオ面談を行っている。Facebook上のメッセージのやり取りが苦手という人もいたためで、面談では1人あたり約30分間の時間を設け、お互いの表情を見ながら気軽に意見交換できるようにした。全員との面談を終えるまでに4カ月を要した。

 Facebook上でエバンジェリストが意見を出しやすい環境を作るために、当初は河村氏のチームがリード役になっていたが、次第にエバンジェリスト同士でのコミュニケーションが活発化していき、河村氏のチーム見守り役に徹していった。

 例えば、iPadの操作のヘルプ依頼も、従来であれば情報システム部が対応するケースがあったものの、Facebook上でほかのエバンジェリストがすぐにフォローしてくれるように、「メールのコミュニケーションでは応答が後回しになるようなことがあるが、Facebookなら気軽にやり取りできるとメリットが生きた」という。

 こうした取り組みを通じて社内エバンジェリスト同士のつながりが深まっていき、数多くのアイデアとともに彼らが中心となって全社でiPadを活用していくための基礎が築かれた。そこで同社は、社員の業務用端末としてさらに4000台のiPadの導入を決定。店舗に展開済みの1000台と合わせて2013年末までに5000台のiPadを利用できるようにするべく、作業を進めている最中だ。

店舗向けiPadでのアプリの一例。顧客対応に活用している

1人に1台は初めて

 現在、進めている4000台の追加導入では最初の1000台の導入で培った経験を生かしている。例えば、端末の調達では日本IBMのレンタルサービスを利用し、必要に応じていつでも端末を変更したり、返却したりできるようにした。「現在の市場動向を考慮すると、最新の端末を使い続けても長くて2年が限界。リースなどの制度では柔軟に対応できない」という。

 キッティングや店舗展開などの作業は、時間の制約から初回だけを情報システム部が対応し、以降は外部に委託する予定だった。だが、FacebookにエバンジェリストやiPadを手にした社員から相次いで感謝の声が寄せられ、その声を励みに現在も情報システム部が担当している。

 また、店舗などの現場では社内エバンジェリストを中心に自主的な勉強会が多数行われ、新たにiPadを手にした社員からの相談に応じたり、活用ノウハウを伝授したりしている。本社で対応が必要になるのは、故障した端末の交換といった程度にとどまっている。

 実は同社にとって、社員個人へ業務用端末を支給するのは今回が初めてになるという。以前はPOSを兼ねた共有コンピュータを店舗に配備していたため、社員が自分用の端末を操作する機会は少なかった。

 河村氏によれば、ちょうど基幹システムの更改時期とも重なったことから、社員に配備するiPadにはPOS機能も持たせる計画だ。基幹システムをプライベートクラウド化し、各社員のiPadから安全に業務システムへアクセスするためのネットワーク環境やセキュリティ対策も整備する。

 「移行期は旧システムとの併用になるので大変になるが、2014年中には販売管理や顧客管理のシステムをiPadから利用できるようにし、できれば発注システムも対応させていきたい」と河村氏。黎明期からiPad活用する同社にとって、モバイルは既に大きな武器へと変貌を遂げつつあるようだ。

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