切手と世界人口から読み解く情報セキュリティのオキテ萩原栄幸の情報セキュリティ相談室(2/2 ページ)

» 2013年11月22日 08時00分 公開
[萩原栄幸,ITmedia]
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学生さんの「気付き」

 例に挙げた切手コレクターの友人の場合、原則として収集した切手を転売しないつもりであることは述べた通りだ。特に、最初に手に入れた「世界の切手50種」は大事なもので思い出になっている。だから、現在まで収集数した4500種の中には、彼が40年前に初めて収集した50種も当然ながら含まれている。「だが……」と筆者が言いかけたところで学生は、「分かりました! 111年の間に少なくとも初めの20億人(1900年時点)は、ほぼ全員が亡くなっているということですね」と言った。

 その後に調べてみたら、ギネスブックで認定された世界最高齢は今年6月まで日本の木村次郎右衛門さん(116歳)だった。しかし、6月12日に他界されたため、現在は米国ニューヨーク州のサルスティアーノ・サンチェス・ブラスケスさん(112歳)だという。学生の「ほぼ全員が亡くなっている」という表現は、あまり問題ないだろう。

 111年という時間のうちに、通常なら3世代以上もの再生産が行われているはずである。だから例えば、この111年間で統計的には180億人が亡くなり、230億人が誕生し、その結果として70億人がこの世にいるということになる。

 また、年齢層のピラミッド構成を変化させようとすると、時間軸をずらす以外に方法は無い。「○歳の人間を○人調達して人口ピラミッドを正常の三角形にする」ということは不可能だ。全体数を計画的に減少させ、ピラミッドを小さくするなら、戦争ぐらいしか方法はないだろう。

 ここまで深読みしたついでに世界大戦時における年齢層の歪んだピラミッド構成や、先進国における少子高齢化の傾向、発展途上国における乳幼児の死亡率の大きさといった様々な情景をぜひ思い描いてほしい。そして、現在の年齢層のピラミッド構成が現状のまま今後も推移していくと仮定して30年後、50年後、100年後を考えてみたい。

 そこから、例えば(ピラミッドとしての)適正な人口、地球環境、人類のロットからみた適切な食糧の規模や酸素の消費量、二酸化炭素の増大といった様々な関係事項を読み取ることができるだろうか。実は、前項に示した「数」と「時間」という2つの軸以外に、年齢別や地域別といった多次元で分析をすることで全く違った視点で世界が見えてくる。こうすることで過去を学ぶことから将来もみえてくるだろう。それが智恵であり、情報セキュリティの世界においてもこの視点は極めて大事である。

 人口は過去からの単純な数字の積み重ねではない。その間の出生数、死亡数を加味した結果としての数値に過ぎないのだ。生まれてすぐに亡くなる赤ちゃんも、100歳以上のおばあさんも皆1人なのである。50億人も増えたということではなく、その間の情勢を良く考えることが統計の本質ではないだろうか。

萩原栄幸

日本セキュリティ・マネジメント学会常任理事、「先端技術・情報犯罪とセキュリティ研究会」主査。社団法人コンピュータソフトウェア著作権協会技術顧問、CFE 公認不正検査士。旧通産省の情報処理技術者試験の最難関である「特種」に最年少(当時)で合格。2008年6月まで三菱東京UFJ銀行に勤務、実験室「テクノ巣」の責任者を務める。

組織内部犯罪やネット犯罪、コンプライアンス、情報セキュリティ、クラウド、スマホ、BYODなどをテーマに講演、執筆、コンサルティングと幅広く活躍中。「個人情報はこうして盗まれる」(KK ベストセラーズ)や「デジタル・フォレンジック辞典」(日科技連出版)など著書多数。


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