なぜ「バカッター」はいなくならないのか?萩原栄幸の情報セキュリティ相談室(2/2 ページ)

» 2014年01月17日 08時00分 公開
[萩原栄幸,ITmedia]
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SNSのエチケット

 それではSNSへの投稿やユーザーが取るべき行動について述べたい。

 まず投稿時に注意すべき点は、「仲間」と「世間」とのギャップを常に認識することだ。学生と社会人での大きな違いに「サークル」と「会社」がある。

 サークルは同じ思考(嗜好)や年代、環境で意思疎通が極めてスムーズかつ居心地の良い人間の集合体であり、気が合わなくなれば、脱会すればいい。「会社」は利益を追求するところであり、社会人には給与がある代わりに責任や重圧もある。また、部や課といった集合体には自分にとって絶対に受け入れられないという人間が存在する。気が合わないとすぐに辞めた瞬間にお金がもらえなくなり、生活ができなくなるという事実が横たわっている。逆の見方ではそういう社会的訓練を必然的にすることで、若い感性から成長した一人前の感性へとつながっていく。

 そして、自分の行動に責任を持つ、責任を持てない行動はしてはいけないということだ。当たり前だが、世界中の人が閲覧できてしまう環境に、「悪ふざけ」「冗談」は通じない。投稿した人、画像を撮影した人、お馬鹿な行動を撮影された人、周囲の傍観者たち――様々な人間がその投稿画像(行動)に対して責任を取らされるリスクがある。ところが「バカッター」とは、そういう単純なことに気が付かないし、気が付いたときには既に遅い。友だち同士だけでこっそりと写真を回し見る時とは違い、ネット上の写真は世界中のありとあらゆる人たちの目に触れてしまうということをあまりにも軽視している。それは未成年であっても、大抵は許されない。

 なお、最近では地域性の高いSNSなどへの投稿やクラウド上の投稿も多いが、投稿した情報や画像が世間に晒されるリスクはTwitterよりは低いものの、決してゼロではない。そもそも投稿すべきでは無いという理解を育む取り組みも大切である。大人になると自動車のアクセルを踏むことが勇気(高速スピードのスリルに挑む)ではなく、アクセルを緩めて事故や検挙のリスクを回避するのが本当の勇気だと分かるのだが、実際には痛い経験をしないと分からないかもしれない。

 これらの意識や考え方は、本来学校や家庭で学ぶべきなのかもしれない。だがSNSが普及してから10年も経っていないので、誰かが丁寧に教えてくれるわけでもないという環境が「バカッター」という不幸を招いていることもあるだろう。しかし、結局は「自己責任」になる。自分の行動に責任が持てないなら、せめてその行動が正しいかどうか臆病なくらい慎重に行動し、自分の身を守るというのが命あるものの究極の行動パターンだ。しかし、なぜかそういう行動をとれない若者が多い。

 そして、過去に「バカッター」となった人間のその後に注目していただきたい。警察が書類送検や逮捕する刑事事件としての側面、被害者に対する損害賠償請求つまりは「金銭」で責任を負う(未成年なら両親が賠償する)という民事事件の側面があり、昨年はバカッターの無責任行動による企業倒産も現実に発生している。さらには風評被害としての側面が追い打ちをかけて襲ってくる。当事者の多くは将来の夢や希望のある人生を絶たれてしまうといっても過言ではないほどの状況になる。友人や親戚とはだんだん疎遠になり、多くは退学、引っ越し、携帯電話の番号やメールアドレスの変更を余儀なくされる。両親にも泣かれる。

 実際に自身の行為を最も悔やむことになるのが就職活動だ。筆者の知る企業の人事担当者は、有名企業や人気企業であるほど、応募者の過去の行為に関する情報は掌握しており、当事者が応募してくるなら、まず不採用にする。当事者が一流大学出身だろうが、トップの成績であろうが一切関係ないと話していた。仮に「バカッター」を選考基準にしていないという企業から内定をもらっても、関係会社や親会社からクレームが入れば、ほぼ間違いなく内定が取り消される。

 次回は、企業側の立場から被害者とならないための方策と、バカッターの個人情報を世間に暴く自称「正義の味方」の行為について触れてみたい。

萩原栄幸

日本セキュリティ・マネジメント学会常任理事、「先端技術・情報犯罪とセキュリティ研究会」主査。社団法人コンピュータソフトウェア著作権協会技術顧問、CFE 公認不正検査士。旧通産省の情報処理技術者試験の最難関である「特種」に最年少(当時)で合格。2008年6月まで三菱東京UFJ銀行に勤務、実験室「テクノ巣」の責任者を務める。

組織内部犯罪やネット犯罪、コンプライアンス、情報セキュリティ、クラウド、スマホ、BYODなどをテーマに講演、執筆、コンサルティングと幅広く活躍中。「個人情報はこうして盗まれる」(KK ベストセラーズ)や「デジタル・フォレンジック辞典」(日科技連出版)など著書多数。


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