CMMIレベル5を取得 受託開発の信念を愚直に貫くシステム情報田中克己の「ニッポンのIT企業」

業界平均を大きく上回る営業利益率約8%を上げる受託ソフト開発会社、システム情報。その強みの裏側に迫る。

» 2014年01月28日 08時30分 公開
[田中克己(IT産業ウオッチャー),ITmedia]

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 営業利益率約8%を確保する受託ソフト開発会社がある。年商約40億円のシステム情報だ。業界平均を大きく上回る業績を達成する秘策は、システム品質にある。その実現のために同社はCMMI(能力成熟度モデル統合)レベル5を取得したり、PMP(プロジェクト・マネジメント・プロセス)資格の取得者を増やしたりしてきた。結果、顧客企業から信頼を勝ち取っている。

大手企業と伍する

 システム情報の設立は30年以上前の1980年になる。今日まで受託ソフト開発を中心とする事業を展開し続けてきており、多くの同業と同じようにバブル崩壊、ITバブル崩壊、リーマンショックで業績を大きく落とした。例えば、売り上げはITバブル崩壊で17億3500万円(2002年9月期)から14億6000万円(2003年9月期)に、リーマンでは43億3800万円(2009年9月期)から35億4300万円(2010年9月期)に減収した。

 こうした環境変化の中で、同社が経営の安定化を図るために力を入れたのがシステム開発の品質保証だ。簡単に言えば、プロジェクト管理(PM)をしっかり行うということ。それを確立するために、システム情報はCMMIにそった開発プロセスを順守してきた。

 CMMIは米国カーネギーメロン大学ソフトウェア工学研究所が開発したもので、その能力成熟度を5段階で評価する。同社は2006年9月に「組織におけるプロセスが確立されている」というレベル3、2010年9月に「プロセスは測定され、定量的に管理されている」というレベル4を達成し、さらに2012年11月には「最適化されている」というレベル5に到達した。

 実は、レベル5を持つ日本のIT企業は極めて少ない。中国やインドには100社を超すIT企業が取得しているのに対して、日本はNTTデータ、日本IBM、野村総合研究所、ジャステックなどたった7社だ(2013年11月時点)。松原春男社長は「CMMIを取得した背景には、失敗があった」と明かす。プロセスが標準化されていなかったので、プロジェクトは個人任せになっていた。「教科書的なものはあったが、うまく活用できなかった」(同)。そこで、全社でプロセス標準化に取り組むことを決め、ノウハウを持つ人材を集めるなどし、CMMIへと動いたのだ。

PMP保有率は業界トップ

 システム情報は、米PMIが認定するPMP(プロジェクトマネジメント・プロフェッショナル)取得者も増やしている。その目的はCMMIと同じ、品質保証にある。松原社長は「個人のPMP資格の保有率は、NTTデータと並ぶ」と、業界トップクラスを強調する。ちなみに、2013年9月の取得者は112人で、技術者の38%にあたる。松原社長を除く全取締役も取得済みだという。

 松原社長は「保有率100%を目指す」と意気込む。そのため、社内選抜試験やeラーニング、オリジナル問題集の用意などPMP推進プログラムを整えてきた。「PMP同好会を立ち上げて、切磋琢磨している」(作間栄取締役)。3年ごとに資格更新があるので、勉強は怠れないということだろう。一方、毎週月曜日にプロジェクトレビューを行っており、「標準プロセスを利用しているか」など厳しくチェックしている。

 こうした品質の向上策は、失敗プロジェクトをなくし、収益性を高めることにつながる。事実、同社の営業利益率は2012年9月期に7.1%、2013年9月期に8.2%と、業界平均を3ポイント程度上回る。年商200億円未満の上場会社の中で、高収益会社の1社になる。

 しかも、「リーマンショック後、同業他社より、いち早く立ち直りを示せた」(松原社長)。2010年9月期の35億4300万円から2013年9月期には42億3100万円に回復した。2014年9月期は過去最高の45億円を目指す。その裏には、品質に加えて、販売力があった。

 実は、バブル崩壊前まで、NTTデータと日本IBMの2社向けが売り上げの8割を占めていたという。そうした中で、営業人員(現在5人)を確保したり、大手IT企業の人材を顧問に迎えたりし、販路を広げ、現在はNTTデータや日本IBM、三菱電機インフォメーションシステムズ、日本HPなど大手IT企業からの売り上げが3分の2になり、残りの3分の1はリコーや第一生命情報システムなどユーザー企業との直接取引になる。顧客開拓の成果は着実に上がっている。


一期一会

 松原社長はあるディーラーにSEとして入社する。その後、専門学校に移り、講師とシステム開発をこなすが、「教えることより、システム開発をしたい」と決意し、システム情報を設立した。独立したのは36歳で、「恵まれている時代でもあった」。その後、バブル崩壊などを経験したこともあり、システム品質を重要視する企業を目指す。CMMIはその証にも思える。

 CMMIは数年前まで注目を集めていた。高品質な情報システムを構築する上で、プロセスの標準化は欠かせないとし、多くのIT企業が取得に努めた。レベル3を取得するIT企業は増えたものの、レベル5に到達したIT企業は少なかった。最近は話題にもならなくなっている。なぜか。ユーザーの選択基準の1つに入っていないからではないだろうか。政府もだ。

 それでも、松原社長は「開発と保守を着実にやっていくことが大切」と愚直に貫いた。ソフト開発を請け負う企業の基本と思えるが、それを忘れている受託ソフト開発会社の経営者は少なくない。「当社の売りはこれだ」。得意技を明確にすることが生き残り、成長を遂げるのに必要なこと。松原社長はCMMIレベル5を達成したことで、「信用力は確実に高まり、ユーザーが話を聞いてくれるようになった」と嬉しそうに話す。もちろん、容易に商談を獲得できるわけではない。最初は数百万円の案件から始めるかもしれないが、評価が高まれば受注額は増えていく。

 目標は売上高100億円、経常利益率7%以上、社員500人。数年後の達成を目指し、既存事業を年率5%超で伸ばす。さらにコンサルティングやM&Aなどで事業の幅を広げていく考えだ。だが、「一気に勝負するつもりはない」と松原社長は慎重。品質保証を最優先するからだろう。

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