カンザス州リーウッドに本社を置くAMC Theatresは、米国第2位の映画館チェーン。全米で約350の映画館を営業し、観客数は年間2億人に上るが、娯楽が多様化する中、そのビジネスは難しさを増している。同業他社はもちろんのこと、デジタル化によって登場するさまざまなホームエンターテインメントも手ごわいライバルとなりつつあるからだ。
AMC Theatresでも一部の映画館でリクライニングシートを導入したり、食事スペースを設けるなど、観客を呼び込もうと努めている。しかし、肝心なのはハードウェアではなく、実際に観客に接することの多いアルバイトのスタッフや、彼らを束ねるマネジャーだ。そう話すのは、同社で29年働き、先ごろまでチーフ・ピープル・オフィサーの職にあったキース・ウィーデンケラー氏だ。
「われわれのビジネスでは、ライバルの映画館でも同じ映画が上映されている。差別化のカギは素晴らしいサービスの提供だが、離職率が200%と高く、先ずは優れた人材の獲得が急務だった」とウィーデンケラー氏。
研修プログラムで優れた人材を育てようにも在職者の2倍もの人が辞めてしまう現状では、先にやるべきことがある。AMC Theatresの理念やその提供するサービスに適した人たちを採用することだ。ウィーデンケラー氏は、Kenexaを導入し、オンラインのツールで応募者をスクリーニングすることから始めた。
Kenexaは優れた成果を上げ、離職率を90%にまで抑え込むことに成功、観客の評判も改善し、アンケートで「満足」と回答してくれた人も43%から53%に増えたという。
ただし、映画館によってこの「満足」回答率にばらつきがあることも分かった。
「映画館運営の良しあしは店舗マネジャーにかかっている。“満足”という回答が8割のところもあれば4割のところもある。われわれはIBMのテクノロジーを活用し、優れたマネジャーの行動分析を行い、研修に生かしたり、だれをマネジャーに昇格させるべきかの意思決定に生かした」とウィーデンケラー氏。
優れた人材が店舗のマネジャーに就くことで、現場のスタッフの仕事に対する取り組み姿勢も改善され、それによって、例えば売店の売り上げが大きく伸びるなどして、キャッシュフローを20%近く改善できたという。
AMC Theatresは、さらに観客を呼ぶ込むためにリクライニングシートの増設や食事スペースの改修などに多額の投資を行う計画を立てており、昨年末にはニューヨーク証券取引所に上場することで3億ドルを超える資金を調達した。恒例のオープニングベルを鳴らす晴れがましいセレモニーには、同社で約30年働いたベテラン、ウィーデンケラー氏の顔もあった。
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