IT基盤の共通化を失敗しない理由、王子グループに聞く(2/2 ページ)

» 2014年02月24日 08時00分 公開
[國谷武史,ITmedia]
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シンプルな運用にこだわる理由

王子HD 王子ホールディングス本社(同社サイトより)

 王子ビジネスセンターでは共通基盤によるサービス提供の開始から2年余りで、仮想サーバが100台近くも増加した。運用実績が高まるにつれ、4つのサービスレベル「S・A・B・C」のうち、ミッションクリティカルに近いSランクのシステムにも仮想化を適用できるようになってきたからだった。

 管理するサーバの台数が増え、重要度も高まっていくと、運用管理者の負荷も増大すると予想される。だが、同社では一貫して2〜3人での運用を実現している。

 共通基盤で同社はIBM製品を導入した。サーバでは将来のUNIX系システムの仮想統合を見越して、これに対応できる「Flex System」を採用したが、特に“こだわった”のがストレージだ。

 仮想サーバが増えてくると、格納先のストレージが重要になる。同社ではIBMのハイエンドストレージ「XIV」を採用した。島田氏によると、共通基盤の運用は可能な限りシンプルにすることを志向していたという。XIVではストレージ管理機能の活用で、パフォーマンスなどのチューニングがほとんど不要になる点が同社のニーズに合致した。

 本来であれば、トランザクションの多いシステムではストレージのI/Oを高速化するといったチューニングを行うだろう。しかし、同社ではあえて大掛かりなチューニングを行わなかった。システムごとに運用が変わると、管理も煩雑になるからだ。

 併せて、グループ内からのサービスリクエストなどに対しては、実質的に十分なリソースだけを割り当てるようにし、将来を見越して過剰にリソースが確保されてしまう事態を回避している。こうしたシンプルな運用に徹することで、担当者1人あたりの管理サーバ台数が100台以上になっても、安定して運用を維持できているようだ。

 共通基盤のようなクラウド環境ではサービスインまでのリードタイムの短縮も可能になり、新しいシステムを迅速に構築できるメリットがある。王子ビジネスセンターの運用形態ではそのメリットが十分に発揮されない印象も受けたが、「当社の事業はB to Bビジネスなので、B to Cほどスピードが必要というわけではないが、共通化以前はサービスインまでのリードタイムが平均数カ月だったものの、共通化後は1週間程度に短縮されており、グループ内から不満を寄せられたことはない」(島田氏)という。

 現在、プロジェクトはIAサーバの仮想統合という当初の目的が完了に近づいており、2014年度からは10台あるUNIXサーバの仮想統合に着手していく予定だ。プロジェクト当初に見込んだコスト削減効果は30%だったが、実際には50%程度になるという(物理環境のまま5年間運用した場合の想定との比較)。

自社保有にはこだわらない

 仮想統合によって実現した王子グループのIT基盤は、いわゆる「プライベートクラウド」にあたる。ただ、島田氏はよりシステムを集約していけるのであれば、自社運用にはこだわらず、パブリッククラウドも積極的に活用したいと話す。

 「システムの集約を追求すればするほど、自社でクラウド環境を運用するメリットは小さくなっていく。スケールメリットを考慮すれば、『業界クラウド』も視野に入ってくるだろう」(島田氏)。

 数年先に予想される次の基盤更改に向けて、あらゆる選択肢を検討していくという。

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