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» 2014年04月15日 08時00分 UPDATE

田中克己の「ニッポンのIT企業」:テストエンジニアが活躍する場を作り続けるシフト

元々は金型生産の企業で働いていた丹下大社長は、そこで培ったノウハウをIT業界で生かせるはずだと考え、システムテストを手掛けるシフトを立ち上げた。

[田中克己(IT産業ウオッチャー),ITmedia]

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 業務システムやアプリケーションソフトなどのテストを専門に請け負うIT企業がある。2005年に創業したシフトで、年率50%で成長を続けている。ユーザーも、受託ソフト開発会社も、開発とテストを分業しようとしていることが背景にある。テストの方法論を確立する一方、テストエンジニアの地位向上に努める。

IT業界のビジネスモデルに疑問を抱く

 シフトの原点は、丹下大社長兼CEOが同社創業前に勤めていたインクスだ。同社は金型生産の超短納期化で有名。丹下氏は自動車や電機などのメーカーへのコンサルティングに携わり、生産管理や品質管理のノウハウを培った。それを生かして、業務の改善や改革に関するコンサルティング会社としてスタートしたのがシフトだ。

 コールセンターや物流センターなどに関するコンサルティングを手掛けている中で、2007年に大手ECサイト運営企業からECシステムのコスト削減と効率化に関する依頼を受けた。「テストに年間約7億円もかかっていることに、同社はおかしいと思ったのだろう」(丹下社長)。当時の同社は、開発したシステムのテストを外部に委託しており、テストを行う人数は120人ほどだったという。しかし、関係者を調べてみると、「仕事のやり方が雑に見えた」(同)。

 丹下社長が熟知する金型作りのノウハウは職人にある。彼らの暗黙知を形式化した経験などから、テストを同じように可視化、数値化するのがセオリーと考えた。そこで、職人だと思った外注先のテストエンジニアをヒアリングしたところ、テストのロジックが見えてこなかった。特に品質の担保や見積もり方法が分からない。至った結論が「何も考えていない」(丹下社長)ということだった。

 「IT業界がそんな構造なら、自分たちでゼロから方法論を考えるしかない」(丹下社長)と判断し、ECシステムの仕様書を分析する。分かったのは、入力にはいろいろな条件があり、それらの組み合わせを標準化、部品化するのが可能なこと。部品化すれば、再利用できる。そこから、例えば、1000万円の開発なら、どこまで品質を保証できるかといったビジネスモデルを考えた。

 シフトは、そのビジネスモデルを外注企業に説明したところ、「理論的だが、現実的ではない」と採用を拒否されてしまった。そのため、「シフト自らやろう」となり、大手ECサイト運営企業のテストのアウトソーサとして、プロジェクトへの参画を決断した。結果、約2億円のコスト削減に成功する。編み出した方法論を使えば、エンジニア1人当たりの費用を下げられるのは、明白だったからだという。

シェア・ナンバー1を目指す

 大手ECサイト運営企業のテスト作業を2年ほど続ける中で、同社以外にも適用可能と考えて、2010年から営業活動を始めた。そのころ、ユーザーが開発とテストを分けて、企画と開発に優秀な人材を振り向ける策を模索していた。テスト作業には波があり、必要な人材の増減が激しい。簡単に言えば、テストが終了したら、そのエンジニアは必要なくなるということである。

 そんな中で、テスト項目が10個なら、1人当たり最低35万円という料金を提示したところ、「仕事はどんどん増えた」(丹下社長)。10人でスタートしたテスト事業は、2013年12月には約350人に増える(外注とアルバイトを含む)。動作確認や仕様書通りの機能を持っているかを確認するテストの需要は、今も拡大する。

 丹下社長は、テスト市場を次のように見る。約10兆円のIT市場のうち、テストに約4兆円を割いている。ただし、ユーザーが社内で実施するインハウスがほとんどで、アウトソーシングするのは全体の1%程度、つまり少なくとも400億円のマーケットがある。ユーザーから直接請け負うこともあるし、大手のITベンダーやソフト開発会社からの依頼もある。パッケージソフト会社やゲームソフト会社からもある。

 そう考えると、テスト専門会社が獲得可能な市場規模は、その10倍くらいになるだろうと推定した。そこでのシェア・ナンバー1を目指し、シフトは東京、大阪、札幌に合計800坪の事務所を構える。「安いから、試しに小さな案件から使ってみよう」(丹下社長)となり、成功すれば、多くのプロジェクトの中に組み込まれていく。リピート率は9割にもなるそうだ。

 だが、大きな問題がある。年率50%成長を続けていると、人材採用が成長のボトルネックになってくる。「テストはめんどうな作業と思っているエンジニアは少なくない。だが、開発をしたいエンジニアと、テストをしないエンジニアは違う。分かりやすくいえば、宝探しや粗探しをしたいような人の方がテストに向けている。いろいろな条件を組み合わせて、こんな場合こうなるのかとパズルを解くような作業になる」(丹下社長)。2013年は約70人を採用し、社員は約150人(このほかにアルバイトが約100人、パートナ企業が約100人)になったが、2014年も100人の採用を計画する。

 とはいっても、誰でもいいというわけではない。テスト業務に必要な能力を備えているかを測定するCAT(Computer Aided Test)と呼ぶシフト独自の検定試験に合格したエンジニアしか採用しない。ちなみに合格率は、テスト設計者向けが1.3%、テスト実行者向けが3.3%と厳しい。CATは、テストエンジニアという職業の認知を高める役割もある。「開発はオフシェアされていくが、品質保証のテストは日本に残る。このポジションをとる」(丹下社長)。それが当面の目標になる。

 次に目指すのは、情報サービス提供会社である。「テストの帝国データバンクのようなビジネスモデルを考えている」(丹下社長)。年間約600件のテスト案件を請け負っているので、どんな場合に、どんな問題が発生するのかが分かってくる。そんな蓄積した情報を分析、加工して提供するサービス会社になるということだ。

 例えば、アンドロイド端末にGPSをつける場合、こんなコーディングをすると、こんな不具合が出るので、回避するにはこの方法を使う、といった情報を提供する。こんなシステムの開発なら、この開発ツールを使ったほうがといった情報も用意する。

 さらに、ユーザーのソフトの選択規準となる情報もある。例えば、1万円と10万円のグループウェアがあっても、機能などの違いが分からなければ、ユーザーはおそらく安価な方を選ぶだろう。実は、1万円のグループウェアにはこんなセキュリティホールがあり、こんな使い勝手になっている。対して、10万円のグループウェアは、そこがこう異なる、と分かれば、ユーザーは品質や価格などを基準に選べることになる。

 背景には、テスト市場は小さくなるとの読みがある。不具合の発生につながる問題をつぶしていけば、極論すれば、テストは必要なくなる。情報サービス提供に進む理由はそこにあるのだ。


一期一会

 シフトの取り組みに、“安売り”と批判するIT業界関係者の声に、丹下社長は「効率的なテストを行う方法論を確立し、利益もきちんと確保している」と反論する。競合他社とビジネスモデルも異なる。多くは派遣型なのに対して、シフトは請負を基本とする。

 契約も、「このシステムの品質保証には、こんなテスト項目が必要になるので、100万円です」と提示する。不具合が発生すれば、再現確認を実施し、損害賠償を支払うこともある。もちろん、決めたテスト項目に沿った品質保証の範囲で、賠償額の上限はある。

 今年40歳になる丹下社長は「世の中を良くする仕事をしたい。新しい価値を創り出す」とする。テストのアウトソーサとして立場を確立し、システムの品質保証を目に見える形にするよう取り組みを続けている。

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