日本法人のトップ交代にみるsalesforce.comの次なるステージWeekly Memo

セールスフォース・ドットコムが先週、トップ交代を発表した。その会見で語られた内容から、親会社である米salesforce.comの次なるステージを探ってみたい。

» 2014年04月21日 08時00分 公開
[松岡功,ITmedia]

日本HP前社長の小出氏がCEOに就任

 「日本でのビジネスはこれまでの10年で大きく成長した。これからの10年、それをさらに加速させるため、経営体制を大幅に強化することにした。新経営体制の下で、日本法人を売上高10億ドル(約1000億円)、社員数2000人規模の企業に成長させていきたい」

 米salesforce.comの社長兼副会長であるキース・ブロック氏は、同社の日本法人であるセールスフォース・ドットコムが4月16日に開いた経営体制強化についての発表会見でこう語った。

 セールスフォース・ドットコムはこの日、代表取締役会長兼CEOに日本ヒューレット・パッカード(日本HP)前社長の小出伸一氏を任命したことを発表。シニアバイスプレジデント兼エンタープライズ営業担当だった川原均氏の取締役社長兼COO昇格、前社長の宇陀栄次氏の取締役相談役就任も併せて発表し、会見にはブロック氏とともに日本法人の新経営陣となった3人も登壇した。

 会見全体の内容については関連記事を参照いただくとして、ここでは筆者が印象に残った新経営陣3人それぞれのコメントを挙げておこう。

 まず、小出氏は今回セールスフォース・ドットコムの経営トップに就任したことについて、「これまで30数年、日本のIT業界に身を置いてきて今もっとも強く感じているのは、新たなデマンドを創り出すことこそが次なる成長につながると。それをもっとも推し進めているセールスフォース・ドットコムの経営に携わることは、私のビジネス人生にとってもまさに第2ステージの始まりだ。3人で力を合わせて日本の社会に貢献していきたい」との所信を語った。

 また、川原氏は日本法人の新経営体制について、「米国本社の経営チームと密接に連携しながらも、日本市場に対応したさまざまな意思決定を一層迅速に行えるようにしていきたい」との決意を語った。ちなみに、同氏はCOOとして日本法人のオペレーションを統括するとともに、エンタープライズ営業、業種別ビジネス展開などを主導していく役目を担う。

 そして、宇陀氏は今回の人事について、「当社の業績は今、非常に好調だ。好調なうちにこれからの10年を見据えて売上高や社員数の目標を立て、それに相応しい経営体制をつくるべく私が計画して進言した。小出さん、川原さんともに大きなビジネスを推進してきた経験があり、当社をさらに日本の社会に貢献できる企業に育て上げてくれると確信している」と説明した。経営トップのバトンを渡した同氏だが、引き続き新経営陣のメンバーとして特別プロジェクトなどを率いるという。

左から、セールスフォース・ドットコムの川原均氏、小出伸一氏、米salesforce.comのキース・ブロック氏、セールスフォース・ドットコムの宇陀栄次氏 左から、セールスフォース・ドットコムの川原均氏、小出伸一氏、米salesforce.comのキース・ブロック氏、セールスフォース・ドットコムの宇陀栄次氏

salesforce.comの次なるステージの目標は?

 第2ステージ ―― セールスフォース・ドットコムの新経営陣3人のコメントで、筆者は小出氏のこの言葉が特に印象に残った。あくまで小出氏のビジネス半生における話だが、今回の経営体制強化はセールスフォース・ドットコムにおいてもまさしく第2ステージの始まりといえるだろう。

 いや、「第2」と区切れるかどうかは別として「次なるステージ」ととらえれば、今回の日本法人の発表内容は、親会社であるsalesforce.comのそれをも映し出しているかもしれない。

 筆者が注目したのは、10億ドルという日本法人の売上高目標だ。この数字は宇陀氏が掲げたものだというが、これと同期して米国本社はグローバルで売上高100億ドル(約1兆円)を見据えているのではないだろうか。

 その根拠は、salesforce.comの2014年1月期の通期決算における売上高が前期比33%増の40億7000万ドルだったことだ。40億ドルから100億ドルへは2.5倍伸ばさなければならないが、日本法人の10億ドルへの挑戦も同じような条件だと推察される。つまり、日本法人が10億ドルに達したとき、グローバルでは100億ドル企業になると。これがsalesforce.comの次なるステージではないか、というのが筆者の見立てだ。

 次なるステージという意味では、もう1つ注目点がある。売上高を伸ばすだけでなく、収益を確保するビジネス構造を築き上げられるかどうかだ。salesforce.comは今やクラウドサービス専業最大手のビジネス規模を誇っている。しかし、創業以来、収益を度外視して設備やサービス開発、プロモーションへの投資に力を入れてきた背景がある。

 ただ、クラウドサービス市場は収益を度外視しても投資を行い、ビジネス規模を拡大し続けないと生き残れない激戦区で、競合となるAmazonやGoogleも同じビジネス手法をとっている。もっとも、このビジネス手法はsalesforce.comが先鞭をつけてきたものともいえる。

 とはいえ、次なるステージでは収益を確保するビジネス構造を築いていかないと、そろそろ経営として厳しくなるのではないか。せっかくの機会なので、そんな疑問を今回の会見の質疑応答でブロック氏にぶつけてみた。すると同氏はこう答えた。

 「当社はクラウドサービスを通じて顧客にイノベーションを提供するために存在している。その顧客ニーズに応えるべく投資し続けている。収益については、これからビジネス規模が大きくなっていく中でサービスを効率良く提供していけば、十分に確保していけると考えている」

 salesforce.comは果たして1兆円企業になれるのか。その前に業界再編のうねりに呑み込まれることはないのか。もし、1兆円企業になったとき、どれくらいの収益率を確保しているのか。いずれもクラウドサービス市場の今後を占う重要なポイントである。

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