【第3話】真夜中のジョブ再実行その日、私の仕事はなくなりました 〜僕の業務システム改善日記〜(4/4 ページ)

» 2014年04月23日 08時00分 公開
[谷口有近(シロッコ情報技術研究所),ITmedia]
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一難去ってまた一難

 「コーヒーを買ってきましたよ。外の机に置いておきますから、皆さんきりの良いところで飲んで下さい。栗平、おまえの分もあるから安心しろ」

 マサさんが気を利かせて飲み物を買ってきてくれたらしい。でも飲み会の後だからか、目がしょぼしょぼしているのが見て取れる。復旧作業が進み出してからは、マサさんは口を挟まず報告資料を作成しているようだ。瀬谷さんは椅子の上で船を漕いでいたのに、ドアが開いた瞬間に目を覚ました。さすがだ。

 この部屋の中に何とかなりそうな安堵感が漂ってきたのが分かる。「あぁ良かった、順調ですね」、と思わず発したケンイチのこの一言が、フラグを立ててしまった。

 「あっ…別のところで…落ちました…よ」

 「どのジョブですか…このジョブ、これ…なんでしょう。栗平さんご存じですか? システムの導入当初には無かったジョブですね。名前の付け方がほかのジョブとルールが違うじゃないですか。瀬谷さん、瀬谷さんの会社、こういう名前は付けないと思うんですよね。あとで追加したジョブですかこれ?」

 「うーん、いやぁ、違うと思うなぁ。そういう名前に関係しそうな見積もりを書いた記憶がな。俺の記憶なんて当てにならんのだけども、書いた見積もりだけは全て覚えてる自信あるからなぁ」

 営業のプロが知らないというのだから、このジョブは別の会社か、または社内で追加したものなのだろう。そして都合が悪いことに、このジョブの詳細は、運用手順書のどこを探しても記載されていない。これはマズい感じがする…。

 一難去ってまた一難。再実行し続けたことが事態を悪化させていた反省から、原因が分からないうちにむやみに再実行するのはやめようと誓った矢先、これだ。ログが一切出ていない状態で落ちてしまったジョブを見て、チトセは考え込んでいる。マサさんは「変更管理書を見る」といって総務のエリアに行ってしまったが、正直それも現実的な解決策ではないだろう。ジョブの作成日時から追ったとして、そこにプログラムは書かれていないからだ。中の処理が分からなければ、何が起きているのか推測するほか無い。

 「…中を覗いてみましょうか。考えていても先へ進まないですし」

 チトセとケンイチは、この難関を乗り越えることができるのか。

メッサー有近のITオペコラム

【今回の解説フレーズ】

(指差喚呼か。車掌みたいだ…)


運用環境でのシステム設定を変更する場合、皆さんは指さし確認、声出し確認をしますか? 私は、ディスプレイ上の操作対象に向かって、必ず2回、指さし確認するタイプです。

立ち会い作業や単一の変更作業を複数人で行う場合、この指差喚呼はかなり有効だと思います。ペアプロみたいなものだと思うんですよね、これ。作業を横から見てる人が、操作手順をすっ飛ばしてる場合に指摘してくれることも期待していますが、例えば、若手に作業手順を教えるときに、作業中に何を考慮してるのかを、実感として伝えることもできるのです。

ただし、最初からそう考えて始めたわけではないんですよね。そんな社内ルールがあったわけでもなく。過去に派手な失敗をしたからかもしれませんが、理由は忘れてしまいました。忘れたいような失敗をしたのかもしれません。

クラウド時代において、ブラウザやコマンドベースでの操作、API経由での管理操作で手順と対象の指さし確認なんて古くさいでしょうが、今でもブラウザ上のノードを指さす自分がいます。「物理的な時代の人間だなあ」といつも考えながらインスタンスを消しています。ハイ。


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谷口有近(たにぐち ありちか)

SNS系ITベンチャーから転身、2001年にカブドットコム証券入社。高負荷でミッションクリティカルな証券取引システムでの基盤設計から、構築・運用全般に従事。BCP用遠隔データセンターネットワークの構築などを担当し、2009年にITプロフェッショナルエヴァンジェリストとして開発と運用の統合的な改善業務を推進。

2011年より社長付IT戦略担当として、エンタープライズにおけるクラウドや仮想化を前提としたシステム改善、タブレットでの先進的UXの実装、ビッグデータ関連のR&Dを担当し2013年に退社。

独立後、現在はICTによる業務改善を目指す組織の業務支援やビジネス開発を中心に、事業会社経験を生かした講演などを行う。

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