モバイルをめぐる活用と管理の最前線・後編端末からコンテンツへ(2/2 ページ)

» 2014年05月28日 09時00分 公開
[古舘與章,ITmedia]
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 ここから、本題であるコンテンツ管理やファイル共有のソリューション選択をそれぞれのメリット/デメリットとともに説明しよう。

クラウドストレージ

 最大のメリットは導入のしやすさである。ハードやソフトをIT部門が設計・構築する必要がなく、トライアル利用を含め数週間から1カ月での導入も実現可能だ。月額や年額による課金モデルとなるため、初期費用を抑えることができる。非常に使いやすく、ユーザーへのトレーニングがそこまで必要ない点も導入を後押しする要素である。コンシューマ向けにもサービスを展開しているケースが多く、ユーザーもデザイン性の高いユーザーインタフェース/エクスペリエンス(UI/UX)を使用することで、仕事のモチベーションが上がるかもしれない。

 デメリットとして実際に利用している企業から挙げられるのは、セキュリティ面の不安だ。セキュリティ機能が充実しているソリューションもあるが、日本にデータセンターが無いケースや昨今のクラウドサービスで発生したインシデントがそういった不安の主な要因である。

 一方で、クラウドストレージ上には管理者のみがファイルをアップロードできるようにし、製品カタログなど、一般にも公開しているような情報だけをユーザーに提供するというケースも多く、運用でセキュリティ面をカバーしているのが現状である。

 ただし、利用規模を拡大していくにつれ、管理者の負荷が非常に高くなり、「社内でいつも利用しているファイルを利用できない」などユーザーの不満も出やすいので、その点を留意する必要がある。課金に関しても、定額なのか、ストレージ容量による従量なのか、2〜3年利用した場合のトータルコストは幾らになるのかを、十分にシミュレーションする必要がある。

セキュアブラウザ型

 メリットはデータがデバイスに残らないセキュリティ面、メールやスケジューラを含めた一体型のソリューションである点である。また、モバイルデバイスとファイルサーバの間を仲介する役割のゲートウェイをオンプレミスに設置でき、かつ、設定も簡単で運用しやすいため、IT部門の評価も高い。接続先が普段社内で利用しているファイルサーバであるため、外出先で急遽必要になったファイルにアクセスできる点も魅力である。

 デメリットは、生産性にかかわるところとして、モバイルデバイス上ではファイルの閲覧のみに操作が限られる点やファイルのブラウジングに時間がかかるというパフォーマンスの問題が挙げられる。IT部門からはセキュリティ面を理由に導入しやすい反面、ユーザー部門にとっては使いづらく、モバイル利用による生産性向上が得られない可能性もはらんでいる。

 ファイルアクセスに関する要件が、「必要な時のみファイルにアクセスできて内容がわかればよい」という程度であれば、十分に要件を満たす。また、ファイル閲覧以外に機能として持ち合わせているメールやスケジューラの確認に関しては、BYODの場合を含めセキュリティ面で得られるメリットが大きい。このため、例えばファイル共有だけはほかのソリューションに代替し、それ以外のメール、スケジューラ、社内Webの利用をこういったソリューションでまかなうことで、全体の運用負荷を低く、コスト効率を高くすることも可能である。

MCM(Mobile Content Management)

 メリットは、セキュリティ面を含め機能が充実している点と、パフォーマンスが高くコンテンツをすぐに閲覧・編集でき、移動やコピーも自在である点である。UI/UXはコンシューマ向けのソリューションと同等以上のものが多く、ユーザー部門に利用を推進しやすい。そのため、ユーザー部門からのクレームにより、ソリューション更改となってしまう可能性が最も低いソリューション群と言える。多機能である分、それらを企業のポリシーに合わせて細かく許可/禁止できるため、利用する部門やユーザーの習熟度に応じて、提供する機能を選択することも可能である。

 また、いつも利用しているファイルサーバを利用でき、Active Directoryとの統合機能も備えているため、ユーザーがいつも利用を許可されているフォルダを、いつもの権限で閲覧・編集できる。IT部門の運用負荷の低減に大きく貢献する。モバイルデバイスで撮影した写真やデバイス上のその他のアプリで編集したコンテンツをすぐ社内ファイルサーバに保存したい場合、MCMは生産性と即時性に大いに貢献する。

 デメリットは、コンテンツ管理に対する要件として常時ファイルにアクセスさせるような内容でなく、最低限の操作で問題ない場合や、セキュリティ要件があまり高くない場合に導入効果を最大限発揮できない点だ。さらに、まだ市場が発展途上であるため、導入するソリューションや規模によってコストにばらつきがある。これらは需要の高まりと相まって、2014年後半から2015年にかけて市場が活性化していき、企業の選択肢に入る機会も増えていくであろう。


 以上、モバイルコンテンツ管理の最前線ということで市場概況やソリューションの選択について述べてきた。筆者自身、自社のソリューションを企業に提案していく中で、モバイルにおけるファイル共有やコンテンツ管理に関して、ソリューションガイドのようなものが非常に少なく、企業が検討する際にソリューションを探すにも、検討するにも非常に時間を要するという声が非常に多かったことが今回、寄稿に至ったきっかけである。

 モバイルコンテンツ管理は、日本においては今年が元年になる考えられるが、生産性やセキュリティ、運用負荷の観点で企業の要件に見合ったものが増えていくだろう。来年には「誰もが使うもの」として市場に認知されるものになるよう期待している。

執筆者紹介:古舘與章

アクロニス・ジャパン株式会社 リージョナル プロダクト マネジャー

2012年9月アクロニス入社。コンシューマおよび法人向けバックアップ製品、法人向けモバイルおよびMac関連製品のプロダクト管理、新事業および新製品の立ち上げを担当している。


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