内部不正や犯罪をさせない、許さないための個人対策萩原栄幸の情報セキュリティ相談室(2/3 ページ)

» 2014年06月20日 08時00分 公開
[萩原栄幸,ITmedia]

「情報」の価値は人それぞれ

 情報は相手によって「粗大ゴミ」にもなるし、「金の延べ棒」にもなることを理解する。イザヤ・ベンダサンは、その著書「日本人とユダヤ人」の中で、「日本人は安全と水はタダである」と伝えているが、筆者はそれに「情報」も加えたいと思う。

 日本の国民性として、無形物に対する扱いが世界に比べて軽んじられているという節がある。現代は「情報を制する者は世界を制する」といえる状況にあり、戦車1台を配備するより、たった数グラムの紙1枚の情報の方が、はるかに価値を持つということを体で理解しておく。

「知らない」ことが最も安全

 この点は、どこかの本で読んだものだが、戦争中にある人種の家族がいたとする。父、母、息子、娘の4人で、ある日に父は息子と一緒に外出し、自宅の財産のほとんどをある場所に埋めた。そして、2人はこう固く決心した――母と娘には絶対に知らせないこと――という。これが愛情であるという話だ。

 ところがその話をすると、大抵の日本人はなかなか理解しないらしい。いわく、「それはおかしい。隠し場所を話しておくのが愛情ではないか」「自分だけ知っていればいいという考えが気に食わない」。

 だが、世界のほとんどの人種はすぐに理解できるという。なぜなら、もし母や娘が敵に捕まり、拷問にかけられたら、「楽して死ねる」権利を欲して、すぐに自白してしまうだろうということだ。死ぬ直前に自白したことを非常に後悔しながら、悔し涙をこぼして死んでいく。しかし、知らなければ絶対に自白はできない。だから、死ぬ直前に後悔することもなく、安心して死ねるというのである。

 これが会社なら、保管庫の暗証番号をある人から「教えてあげる」と言われた場合、その番号を知る必要がないなら「教えないでくれ」と主張するという考え方を身に付けてほしい。“井戸端会議”ではそういうフィルタが機能しないことが多いので注意したい。

「教えない」という友情もある

 これは、上述の観点とは立場が変わった場合の考えである。筆者の実体験を例にご紹介したい。

 ある会社の経営者は、社員が密かに転職活動をしていたことを知ると、内定先の会社に嫌がらせの電話をして、内定を取り消させていた(昔はそういう輩が多くいたようである)。筆者の尊敬する先輩がその被害にあったのである。先輩は転職が決まると退職届を出した。その直後、つい仕事仲間に転職先を話してしまったという。その1週間後に転職予定先の会社から内定の取り消し通知が届いた。

 納得の行かない先輩はその会社の人事部長に理由を問い質したところ、「前の会社の役員から、あなたが不正をしているので倫理委員会で処分を検討していると電話で聞きました。そういう噂のある人間を当社は使いたくない。採用の取り消しは決定事項です」と答えたそうだ。

 先輩のつらい体験を目の当たりにしてから筆者は、仕事仲間や友人に転職先をすぐ教えるようなことはせず、必ず入社後に伝えるようにしてきた。そのことで「あなたがそんな人間とは知らなかった」と非難されたこともある。しかし、これが友情である。うかつに話して取り返しがつかない事もあると我慢を貫いている。日本人はそういう考えをなかなか理解できないが、これも情報セキュリティでは重要な考えとなることを理解すべきだ。

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