アジアで戦うB2Bのナナロク世代――ブイキューブ間下社長

ブイキューブの間下直晃社長は、1977年生まれのいわゆる「ナナロク世代」を代表する若手経営者の1人だ。クラウド型Web会議市場で7年連続国内トップシェアを獲得し、近年は東南アジアを中心に海外展開を進める間下氏の“戦い方”とは――。

» 2014年07月03日 08時00分 公開
[聞き手:國谷武史,ITmedia]

 国内クラウド型Web会議市場で7年連続のトップシェア(※シードプランニング調べ)を獲得したブイキューブ。創業者の間下直晃社長は、1977年生まれのいわゆる「ナナロク世代」だが、ナナロク世代では数少ないB2B企業のトップを務める。間下氏の考えるビジネスでの戦い方を聞いた。

―― Web会議市場で強固な立場を確立されていますが、市場をどうみていますか。

ブイキューブの間下直晃社長

間下 国内市場の規模は200億円ほどで、これは米国の10分の1ほどしかありません。国内には400万社以上ありますが、Web会議を利用しているのは中堅・大企業だけでも1万社強に過ぎません。当社の顧客数はそのうちの4000〜5000社ほどです。非常に将来性のある市場ですし、年間30%ほどのペースで拡大しています。当社としては、継続的にシェアを高めていきたいと考えています。

 当社では中堅・大手の法人顧客にオンプレミス型システムとクラウドサービスを提供していますが、2008年の「リーマンショック」を契機に、その比率が「50:50」から今ではクラウドサービスが85%を占めるようになりました。

 これまで大企業はテレビ会議システムを利用していましたが、専用機器が必要で場所も確保しなくてはならず、使い勝手の面で制約がありました。Web会議ならどこでも利用できるので、そのメリットがようやく知られるようになってきたのではないでしょうか。コンシューマー向けの無料ツールでも似たようなことはできるでしょうが、やはりビジネスや組織として使うにはセキュリティ面での不安が大きく、特に中堅企業から多くの引き合いをいただいています。

 国内の成長戦略では業界再編型のM&Aや当社技術のOEM先の拡大、そしてB2B2Cを中心とした新たな用途の拡大を推進しています。前者のケースでは2014年3月にパイオニアソリューションズを子会社化しました。ブランド力と当社の技術力を融合することで、シェアを高めたいと考えています。後者では企業内や取引先とのWeb会議以外に、例えば遠隔地への営業支援やオンラインセミナー、遠隔教育といった新しい使い方を提案することで、市場をより広げていきたいと思います。

―― 競合ベンダーはユニファイドコミュニケーション(UC)として企業に訴求しています。

間下 当社では映像を中心としたコミュニケーションを「ビジュアルコミュニケーション」と表現します。UCの特徴を含んでいますし、UCという呼び方はあえてしていません。

 UCではよく「コミュニケーションの変革」といったメリットがうたわれますが、それではテーマが大きく、ユーザーに伝わらないでしょう。それよりは、自宅で仕事をしていても会議ができる、本社と地方の支社や取引先といつでもその場で会議ができるといった使い方を理解してもらうことが大切です。

アジアNo1を目指す

―― 近年は東南アジア市場への展開を加速させていますね。

間下 海外戦略ではアジアNo1を目指しています。売り上げベースで海外比率は10%ほどですが、2014年20%に引き上げるのが目標です。

 アジア太平洋地域におけるビジュアルコミュニケーションの市場は約半分を日本が占め、25%がオーストラリアなどのオセアニアです。ここを除けば実質的に日本が3分の2を占めている状況で、アジアの市場はまだほとんど形成されていません。

―― 欧米市場には競合が数多くありますが、どうみていますか。

間下 欧米市場に本格参入する気はありません。北米には進出していますが、ニッチな分野で攻めている状況です。そもそも日本と欧米では資金力が違い過ぎます。米国ではベンチャー企業でも有望であれば大量の資金を調達できますが、日本の資金を背景としている日本の企業ではそう簡単にはいきません。競合の規模も圧倒的に大きいですし。

 しかし、アジアは日本に近い文化を持っていますし、日本を上回る可能性を秘めた市場です。欧米の競合も参入していますが、うまくできていません。やはり、米国流の仕組みでは文化面で受け入れられにくい。そこに当社の勝機があります。日本のビジネスコミュニケーションに合わせた開発をしてきましたし、アジアでも国ごとの文化や慣習に合わせて展開しています。むしろ、欧米市場では当社の特徴が生きてきません。

―― 具体的にアジア市場でどのように展開していますか。

間下 「Global Link」という海外拠点間専用のネットワークサービスを提供しています。実は多くの国では国際回線が弱く、国内の都市部ではMbpsクラスの通信速度であっても、国外とは数百kbps程度で料金も高い状況にあり、プロバイダーも積極的にサービスを提供していません。例えば日本とインドネシアをユーザーが自ら接続しても遅延などによって会議が成り立ちません。

 そこで各国内に当社のサーバを設置し、ユーザーにはローカルのサーバに接続してもらい、国同士の接続は当社が行うことで通信速度や品質を担保します。ユーザーあたりの料金も低廉にできます。このほかにも各国語でのサービスやシステムインテグレーションのような対応も行っています。

―― 国ごとに違いはあるのでしょうか。

間下 B2Bマーケットは基本的に日本と大きくは変わらないと思いますが、進展具合が異なりますね。シンガポールならクラウドサービスを訴求できますが、中にはITよりラーメンが求められるような国もあります(笑)。まだ、コスト削減や効率化といった発想自体が無いわけです。

 商流や利用シーンが異なるところもあります。例えば、中国ではバンに3Gのモバイルルータと会議システムをバンドルして販売することもあります。ユーザーからすると、車を購入したらテレビ会議も付いてきたという感覚で、テレビ会議を目的に購入したわけではありません。たぶん、日本も数十年前までは同じような感覚があったと思います。しかしハードウェアなどは最新なので、先進的なことができる。このギャップでは面白いですが、そのことで苦戦している市場もありますね。

―― 「ナナロク世代」ではミクシィやグリーのようにB2C領域で活躍する起業家が多いですが、B2B領域では少ないですね。この違いをどう感じていますか。

間下 あまり意識したことはないですね。ただ、エンタープライズITの世界でもコモディティ化が進み、コンシューマーの世界に近付いていますので、昔ながらの考え方を捨てるべき時期が来ているとは思います。ユーザーもベンダーも変わっていくべきでしょうに、実際に変わりつつあるのではないでしょうか。

 とはいえ、B2Bでは販売モデルやセキュリティ、業務プロセスといったものをビジネスロジックに組み込むという視点がコンシューマーとは決定的に違います。昔のエンタープライズITはビジネスロジックや業務プロセスだけを見ていればよかったのですが、その視点とコンシューマー領域の感覚や伸びているものを、バランスを図りながら取り入れていかないといけない。そうなると、日常的にITを使ってきた30代から下の世代の人たちの方が取り組みやすいかもしれませんね。

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