「失言・ヤジ」の問題をどう減らせるか萩原栄幸の情報セキュリティ相談室

今回は最近(昔からあるが)問題の多い政治家の「失言・ヤジ」ついて、情報セキュリティの視点からどうすれば減少できるかのかについて取り上げてみたい。

» 2014年07月04日 08時00分 公開
[萩原栄幸,ITmedia]

 最近、石原伸晃環境大臣が発言した「所詮金目でしょ」や東京都議会のヤジ問題などが世間を騒がせている。以前からこういう問題がクローズアップされる度に「もう少し考えればこんな騒動にはならないのに」と思いながら、筆者も若い頃はかなり冷や汗をかいたものだと感じていた。

 そこで自戒も込めて「情報セキュリティ」の観点におけるコンプライアンスや「自分の身は自分で守る」という基本の考えを発展させ、どういう心構えをしておけばこうした失言やヤジの問題を未然に防御できるのかについて、そのヒントを提示したい。政治家だけでなく万人に共通した心構えにもなるので、ぜひ一度真剣に考えていただければ幸いである。

内部と外部を常に認識する/させる

 以前、内部犯罪を防止する考え方の1つに、「内部」と「外部」の境界を明確にするとお伝えした。その考え方は失言・ヤジ対策も同じである。まず内部者を明確にすること。同じ派閥の場合には「内部」、同じ政治家でも政党が異なれば「外部」というように極力具体的に境界線を引いていく。そして、「一人でも外部者がいればその場は外部向け」という原則に従い、発言をする意識が必要だ。ましてやマスコミが相手であれば、「オフレコ」はないと心得ること。

発言の訓練を怠るべからず

 内部者向けの訓練は必要ないが、外部者向けには様々な想定の場(例えば党内の政治家が不祥事をした場合のマスコミ向け会見、秘書が交通事故を起こした場合に雑誌の記者から執拗に追い回された場合のインタビューなど)での発言の場を設け訓練する。決して嘘を上手にいうテクニックではなく、自分やその周辺を守るために不用意な発言をしない、誘導尋問に乗せられないなどのためで、諸外国では専門の講師を招いてトレーニングを行う企業は多い。

発言は脇を固めて慎重に

 「自分の常識は世間の非常識」であることが多い。これは一般の方にも当てはまる。「このくらい、いいだろう」と思って気分よく発言すると、実はそこに大きな落とし穴が潜んでいる場合があると思うくらいがちょうどいい。自分の習慣は常識ではないと考え、言動には十分に配慮する。

考えを凝り固まらせない

 常に創造力を維持・向上させるための工夫をしていく。失言をしがちな人の多くは、とっさの対応力が身に付いていない。想定外の質問でも柔軟に対応する“クセ”を身につけていれば、失言する可能性は減る。お勧めの訓練方法には次の様なものがある。

  • クロスワード
  • 途中が穴埋め式の小学生の算数ドリル(例:9−□×1+2÷2+7=14。単純計算では創造力が身につかない)
  • パズル
  • ディペード(一人ではできないが)

テレビにどう映るかを研究する

 米国の大統領並みとはいかないまでも、せめてあなたを見る側を不快にさせない身だしなみ(ネクタイやクールビズでの体型にマッチした服装)、言葉の品性、表情、最も好感度が高いカメラの角度などはとても大事である。常に好感度を考えた対応、印象が重要で、マスコミや有権者の前では常に選挙期間中だと心得て言動を控えめにする。上から目線、馬鹿にした態度、マスコミを敵にまわす様な横柄さが出ない工夫をする。

謝罪の仕方も考えておく

 最もいけないのは、謝罪をしている発言時において、さらに失言を繰り返すことだ。謝罪方法については個別に違いがあってもいいが、絶対に世間からマイナス評価をされないように心がける。今時、土下座はマイナスにしかならない(同じ気持ちを共有している集まりなどでは有効かもしれないが)。同じパフォーマンスでも誠意が伝わる場と、その逆にしか映らない場があるので注意すること。

「うっかり」は禁句

 「うっかり発言してしまった」――これは良くない。しかも、そのうっかりはほとんどが相手の批判やネガティブな感想である。しかも、それが「本音」と捉えられてしまう。どうせならうっかり相手を「褒めたたえてしまった」くらいに常にポジティブな発言をしていれば、失言(相手の批判など)になり得ない。

技術者・研究者の視点で発言してはいけない

 ともすれば筆者もついつい技術者として発言してしまう。つまり、観察眼を磨けば磨くほど発言が否定から入ってしまう。「でも……」「それは論理的ではない」という発想があり、そのまま発言して他人から「理屈っぽい」「苦手」と思われてしまう。しかも、それが決定的なマイナスになると気が付かないし、どちらかというと「そういう発言はプラス」と思い込んでしまう節がある。少なくとも政治家であれば、絶対に避けなければならない点である。

言葉の重みを理解する

 一部の感性が薄い人は、「言葉」がある意味で暴力以上の凶器になることを、頭では理解していても本質的に理解していない。たった一言で何十年来の友人を失うこともあるし、周りから浮いてしまうこともある。昔から日本には「言霊(ことだま)」という信仰があった。声に出した言葉が現実の事象に対して影響を与えると考えられ、良い言葉を発すると良い事が起こり、不吉な言葉を発すると災いが起こるとされる。万葉集や古事記にもその記載があるという。

 心理学的にも、人が発する言葉はその人間が思う以上に遥かに大きな衝撃を相手に与える場合があるとされ、筆者の経験でも理解できる。軽率な、心にも思っていない発言が人生すら狂わせてしまうことを真剣に理解していただきたい。


 失言やヤジは、一見すると情報セキュリティとはなにも関係ないと思われるかもしれないが、問題を生ませないための心構えとしては、実に共通する点が多い。筆者は最近の失言報道を聞くたびに、心を痛めずにはおれないのである。もし読者の中にもご自身の言動に当てはめる点があれば、ぜひ改善していただけると幸いである。

萩原栄幸

日本セキュリティ・マネジメント学会常任理事、「先端技術・情報犯罪とセキュリティ研究会」主査。社団法人コンピュータソフトウェア著作権協会技術顧問、CFE 公認不正検査士。旧通産省の情報処理技術者試験の最難関である「特種」に最年少(当時)で合格。2008年6月まで三菱東京UFJ銀行に勤務、実験室「テクノ巣」の責任者を務める。

組織内部犯罪やネット犯罪、コンプライアンス、情報セキュリティ、クラウド、スマホ、BYODなどをテーマに講演、執筆、コンサルティングと幅広く活躍中。「個人情報はこうして盗まれる」(KK ベストセラーズ)や「デジタル・フォレンジック辞典」(日科技連出版)など著書多数。


Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

注目のテーマ