メールの組織アドレスと個人アドレス、金融にみるメリット・デメリット萩原栄幸の情報セキュリティ相談室(1/2 ページ)

長年金融機関を中心にコンサルタントをしてきた中で、筆者が意外にも「井の中の蛙」だったのが、メールアドレスに対する考え方である。個人アドレスと組織アドレスの利用について考察してみたい。

» 2014年07月11日 08時00分 公開
[萩原栄幸,ITmedia]

 銀行出身の筆者におけるコンサルティングの7〜8割は金融関係となっている。別の業種業態の仕事もしているが、業務やシステムに精通している金融からの依頼が圧倒的に多く、知り尽くしたつもりでいた。しかし、仕事の中では「井の中の蛙」状態だったと気づくことが幾つかある。その1つが「メール」の考え方である。

 昨年、ある依頼で金融機関が業務で使うメールアドレスを個人ごと配布しているか(例:hagiwara@xxx-bank.co.jp)、組織やプロジェクト単位で利用しているか(例:システム部の組織アドレスならsystem-bu@yyy-bank.co.jp)を調査した。

対象は筆者が今まで何らかの関係があった76の金融機関なので、偏っている可能性はあるものの、個人アドレスを使っている割合はメガバンクで100%、地銀・第二地銀で64%、信金・信組・JAほかで40%だった。

 筆者は、独立以前から多数の方々と異業種交流を行い、情報セキュリティなどの学会でのサポートや銀行員として様々なITベンチャー企業の状況についても作業をしてきた経験もあった。当時、企業としてメールのドメインを持っていない事例は幾つかあったものの、従業員が個人アドレスを持っていない企業はまず無かった。正直にいえば、「従業員なら個人アドレスを持っていて当たり前」と思っていた節が当時は確かにあった。

 ところが独立してみると、個人アドレスを持たない金融機関が意外にも多いことに驚いた。一部の金融機関は組織アドレスのみを公開し、実際は個人アドレスも配布しているという変則的なケースもあった。実際にコンサルティングの検討をしている金融機関へのプレゼンテーションで、このメールアドレスにおける筆者の考え方が心理的な壁になってしまったこともある。

組織アドレスでは不都合な事実

 「なぜ組織アドレスを使うのか」というより、これによって実際に筆者が経験した不都合なケースを紹介したい。

ケース1:人事部(jinjibu@aaa-bank.co.jp)とのやり取り

 人事部とコンサルタント料金について交渉をする場面があった。担当者は多忙で電話がつながらず、仕方なくメールでのやり取りになったが、人事部の従業員なら誰もがその内容を閲覧できる状態だった。これはちょっと恥ずかしい交渉になっていた。ある新人行員が筆者とやり取りしている担当者に、「外部で状況も知らない人(筆者)にこんな高額を支払うのは納得がいかない」と言ったそうである。筆者が提示した金額はベンダーやコンサルタント会社の水準よりもはるかに安価だと思えるものだったが、(相場は銀行員時代に知っている)先方内部でのやり取りがきっかけで結局この案件は流れてしまった。

ケース2:システム部(systembu@bbb-bank.co.jp)とのやり取り

 システム部とのやり取りの最中、システム部が送信した「営業店の無理解で斬新なシステムを提案できない」という報告書や批判のメールが飛び交ってしまった。しかも、システム部の一人が「これは先輩(営業店に配属されていた元上司)を馬鹿にしている」と思い込み、内容を営業店に転送してしまったのである。添付ファイルは一応パスワードで保護されていたものの、そのパスワードを記したメールも転送されてしまい、状況が丸見えになってしまった。その結果、システム部と営業店との関係がギクシャクしてしまい、この関係を修復するのに1年を要してしまった。

 実際のケースはこれらだけには留まらない。ビジネスチャンスを失うという金融機関としては残念な事実も出てきており、筆者は組織のメールアドレスで業務をするという体制についてあまり良い評価をしていない。

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