顧客視点が欠如した日本のITベンダー【新連載】岡目IT八目

日本企業の経営者の多くはITの投資効果が分かりづらいと感じている。さらには、ベンダーに従うままにITシステムを導入した結果、無駄な投資に終わり、不信を募らせている企業もあるという。

» 2014年07月29日 08時00分 公開
[田中克己(IT産業ウオッチャー),ITmedia]

 「IT投資に対する経営者の姿勢に問題ありだ!」

 日本の有力ITベンダーが米国企業に比べて、日本企業のIT投資の少なさを指摘している。拠り所にするデータは、電子情報技術産業協会(JEITA)が2013年10月に公表した「ITを活用した経営に対する日米企業の相違分析」調査である。

日米におけるIT/情報システム投資の重要性(出典:JEITA) 日米におけるIT/情報システム投資の重要性(出典:JEITA)

 彼らが特に問題視するのが、IT投資に対する日本の経営者の姿勢。米国企業では「極めて重要」と回答する割合が75%もあるのに、日本企業はわずか16%しかないこと。

 理由は明確だろう。日本企業は主に業務効率化やコスト削減にITを活用するのに対して、米国企業は「製品やサービスの開発強化」「ビジネスモデルの変革」を優先する。要するに、ITが経営戦略と密接に関係しているどうかということだ。

 だから、日本のITベンダーの役員は「日米の経営者のIT経営に対する意識や考え方の違いによるもの」と原因を分析したのだろう。だが、業務効率化やコスト削減に効果を上げた次に、日本の経営者が何をITに期待するだろうか。

 当然のように、製品開発や新しい収益モデルの創出に経営資源を振り向けたいはずだが、米国企業のようにそこにITを生かそうとしないのは、実は投資効果が分かりづらいからだ。これまでの投資効果があろうがなかろうが関係なしのIT化は、結果的に無駄な投資になっているのではないかとユーザーは不信を募らせている。

“二流のITベンダー”

 このことは、日本のITベンダーの顧客視点の欠如と技術レベルの低さにあるようにも思える。ある調査によると、ITスキル標準(ITSS)で「レベル2以下」のITエンジニアが半数近くを占めているそうだ。IPA(情報処理推進機構)の「IT人材白書2014」でも、IT人材の不足(量、質とも)を感じているIT企業が8割以上に達する。

 教育や研究への投資をおこたるIT企業は少なくない中で、大手ITベンダーは、プロジェクトマネジメントを担うものの、実際の開発作業はこうした協力会社に任せる。長年にわたり脈々と続いてきたこの多重下請け構造で、果たして蓄積した業務ノウハウを生かしてきたのだろうか。そもそも蓄積できていたのだろうか。米国のある経営コンサルタントは「二流のITベンダーが日本企業のIT活用をしているのが実情だ」とこきおろす。

 ITベンダーをはじめとする有力IT企業は、「人材の育成に必死に取り組んでいる」と反論するが、技術力の向上よりも頭数を増やすことを優先しているように思える。これはより多くの案件をこなすためで、人を増やして売り上げ拡大を図ろうとしているようにみえる。ITベンダーや有力IT企業の2013年度の業績を見ても、売り上げを大きく伸ばした理由の1つは、人を増やした結果、国内外の外注先を確保できたのが大きいのではないだろうか。

 間違ってはいけないのは、ユーザー企業が求めているのは、技術者を増やすという量ではなく、業績につながるITサービスを提供するという質である。IT投資が増えない根本的な原因がここにある。ITベンダーは、日本のユーザー企業のIT投資の少なさを指摘する前に、技術力を磨いて、投資効果のある提案ができる人材の育成と体制にすることだ。自ら実践し、効果を証明する。リスクをとって、ユーザーとの協業も推し進める。

 もちろん、ユーザー企業がITベンダーにIT導入から活用までを依存し過ぎていることにも問題がある。いわゆる“丸投げ”は、経営者におけるIT活用軽視に起因する。「すべてお任せください」という20年以上前から続くITベンダーの売り込みもあってか、社内にITを駆使して業績向上を図ろうという考え方がなかなか浸透していない。

 だが、ユーザー側もIT人材育成に力を入れ、事業拡大や新しいビジネスモデルの創出にITを生かさなければ、市場で勝ち抜くことは難しくなっていくだろう。ITベンダー任せを止め、IT企業の技術力や提案内容を吟味する力を養うことだろう。そこから、日本企業のIT活用が進化していくことだろう。

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