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» 2014年09月04日 18時13分 UPDATE

ITソリューション塾:昇進とソリューションは優秀な人材を潰すかも知れない

ある会社の優秀な営業マンは大きな実績を上げ、押しも押されぬ形で課長に昇進。プレーイング・マネジャーとして奮闘していた。ところがある日、歯車が狂い始めたのだ……。

[斎藤昌義(ネットコマース株式会社),ITmedia]

「弊社では、優秀な技術者ほどライン管理職に登用されてしまい、その結果、現場に優秀な技術者がいなくなるという問題が起きています。どうすれば、それを是正できるかを検討しようとしています。

 優秀な技術者が優秀な管理職になれるかという問題もあるかと思いますし、これはその会社の持つ評価制度、給与制度、人事制度にもかかわってくる、一筋縄ではいかない、とても重大で重要な問題だと思います」


 あるSI事業者の方から伺った話だ。マネジャーに登用するということは、プレーヤーとしての現場力を一時的にでも弱体化させることになる。それが分っている上位の管理者や経営者は、新任のマネジャーに、継続してプレーヤーとしての働きを期待する。それを「プレーイング・マネジャー」と称し、本人をどっちつかずの状況に押し込めてしまう。

 最初は何とかなる。それは、マネジャーに任ぜられた本人も張り切っているから、多少のオーバーワークもいとわない。しかも、なれない新任のマネジャーなので、周りの目も寛容だ。ただ、そんな幸福な時間は長続きしない。

 いずれは、自分の立場を明確にしなければならない。自分の力ではなく、組織の力としてビジネスをけん引し、一人のときよりも、より大きな力を発揮できるように働くことがマネジャーの仕事だ。

 経営者は、その当たり前を本人の自助努力に任せてはいないだろうか。はっきりとした目標と、その目標を達成するための手立てを用意することなく、「おまえは、プレーイング・マネジャーなんだから……」という言葉だけで、自らの役割を棚上げしてはいないだろうか。

 このような問題は、技術者に限らず、営業にもある。

 社員500人ほどのソリューションベンダー。プロダクト販売が主な収益の柱となっているこの会社には、60人ほどの営業がいる。その中の一人の営業課長が、しばらくお休みすることになった。

 この営業課長は、新年度の春、課長に昇進して部下を持つようになった。彼は、所属する営業課の半分以上の売り上げを稼ぐ実力者であり、営業の中でもリーダー的存在だった。

 人当たりも良く、誠実なタイプで、お客さまにも信頼され、誰からも「優秀な営業」と評価されていた。そんな優秀な営業マンだから、本人も周りも、彼が昇進して課長になることは、当然といった空気はあった。

ついには出社できなくなった……

 課長に昇進し、彼も大いに張り切っていた。今までの自分が担当していたお客さまは、引き続き自分が担当し、加えて、部下の営業マンの担当するお客さまにも出向き、話をすることもいとわなかった。そんな彼が、変わり始めたのは、秋ごろからだ。

 最初の変化は、会議に出て、発言を求められると話が詰まり、何も話せなくなったそうだ。発言しなければならないことはよく分っているし、何を話すべきかは了解している。しかし、どうしても声が出ない。普段の会話には、何の支障もないのに、会議では声が出ない。あせればあせるほど、苦しくなり、脂汗が出てきたそうだ。

 次に電話が怖くなった。電話が鳴ると、固まってしまって電話を取ることができない。

 次第に遅刻がちになり、そのうち昼前に出社するようになった。満員電車が、怖くて通勤時間帯に電車に乗れないという。とにかく、電車の中で、見ず知らずの人と接することが、耐えられなくなったそうだ。どうしても朝会社に出なくてはならないときは、自腹でタクシーを使っていた。

 しばらくはそんなことをしながら、何とか会社に来る努力をしていたのだが、ついに会社に出て来ることさえ難しくなってしまった。

「真面目」で「誠実」であるが故に

 私には、本当の原因がどこにあったかの判断を下す立場にはない。ただ、このケースからうかがえるいくつかの特徴や背景は、「プレーイング・マネジャー」の意味を考えるきっかけになるかも知れない。

 まず、第一に、「真面目で、誠実な人柄」であること。彼は、プレーヤーとマネジャーの仕事を両方誠実にこなそうとしていた。当然、彼の上司もそれを期待したし、彼ならできると考えていたようだ。彼は、毎日深夜まで働き、休日も仕事をしていた。

 次は、会社の方針転換。この会社は、今までサーバやネットワーク機器の販売など、プロダクト中心の商売をしてきた。しかし、社長は、それではこれからの将来はないということで、「ソリューションビジネスを強化する」と宣言し、モノからサービスへのシフトを加速するよう現場に求めていた。

 しかし、社内にそれに対応するスキルもなければ、デリバリーの要員もいない。結局は、外部から調達するしかない。

 多くの営業は、「冗談じゃない。外部のリソースなど、そう簡単に集められるものでもないし、売り上げ目標を達成するには、効率が悪い」ということで、相変わらずモノ売りをしていたが、彼は真面目に、その方針に従って、奔走していたようだ。

 モノ売りは、調達も販売もかかわる人や手順が比較的シンプルだが、SIなどのサービスとなると、お客さまごとに異なる仕様に、個別に対応しなくてはならず、かかわる人や企業、プロダクトの種類なども増えてしまい、複雑で多様な組み合わせをプロデュースしなければならない。

 それを支える仕組みが、いまだ未整備なこの会社では、それは、すべて現場の営業の仕事だ。これは、相当の負担になったのではないだろうか。

 人は、「不満」で、心を病むことはない。ほとんどの場合、「不安」であることが原因だ。

 背負いきれない荷物を、一身に背負い、自分で抱え込んでしまう。できないことは、自分の努力不足であると考え、「頑張る」ことで、対処しようとする。と同時に、「これで、本当にうまくいくのだろうか」という不安がますます膨らんでいく。

 少々いい加減なところがあって、手を抜く術を持っている人ならいざ知らず、真面目な人はそうはいかない。

 彼がお休みをすることになった本当の原因は分からない。ただ、もし、上記のような事実が関係しているというのなら、それは、彼の能力不足や資質の問題とは言えないだろう。明らかに上席者、経営者の責任だ。

 プロダクトからソリューションへの掛け声を否定する人はいない。しかし、それは、同時にビジネスの多様化、複雑化を意味している。それが、プレーヤーやマネジメントのあり方を大きく変えることとなり、求められる役割や能力も変わってくるはずだ。

 優秀な人に報いる手段が、管理職になることだけである今の人事制度は、もはや限界にきているのかもしれない。そろそろ、この常識を考え直してはどうだろう。そうでなければ、必要とされる、本当に優秀な人たちを殺してしまうかもしれない。それは、本人にとっても、会社にとっても、何と不幸なことだろうか。

 ※本記事は斎藤昌義氏のオルタナティブ ブログ「ITソリューション塾」からの転載です。

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斎藤昌義

ネットコマース株式会社・代表取締役

日本IBMで営業として大手電気・電子製造業を担当後、起業。現在はITベンダーやSI事業者の新規事業立ち上げ、IT部門のIT戦略策定やベンダー選定の支援にかかわる。


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