「カイゼン」を可能に、データの見える化に挑むNEC

2012年から農業分野でのIT化に参入したNECは、農作業の“カイゼン”につながるデータの可視化に注力している。参入から2年が経過した同社に事業の現状などを聞いた。

» 2014年09月11日 07時30分 公開
[國谷武史ITmedia]

 農業分野におけるIT活用への関心が急速に高まりつつある中、同分野に参入するITベンダー各社は独自色を打ち出そうとしている。2012年にいち早く参入したNECは、ビニルハウス設備メーカー大手のネポンとの協業を通じてセンシング技術やネットワーク、クラウドからなる「農業ICTサービス」をビニルハウス向けに展開する。

 ビニルハウスは農作物の栽培環境を一定に保つことが求められるだけに、ITとの親和性が高いようだ。同社のサービスではハウス内に設置したセンサで温度や湿度、日照状況、二酸化炭素濃度といった環境データを取得し、コントローラから携帯電話回線を経由してデータセンターに集約する。

導入農家ではスマートフォンやタブレット端末からハウス内の状況(更新頻度は標準で15分)を確認することができ、温度変化の大きい時節には灌水装置などの機器を操作してハウス内の環境を保つようにもできる。

データ活用を特徴とする農業ICTサービス

 ソリューションの導入規模は既に500棟近くに達し、ハウス栽培の農家だけでなく、農業高校などにも広がりつつある。農業分野のIT化にはさまざまな切り口がみられるが、NECではデータ活用による農作業の改善や農作物の品質向上への貢献を目指しているという。

 新事業推進本部シニアエキスパートの大畑毅氏は、「IT化によって今まで見ることのできなかったハウス内の環境の変化を把握できるようになる。可視化した情報を生かして、『作業の負担が軽減した』『事前に状況をみて現場では必要な作業に集中できる』といった声をいただいている」と話す。

 可視化したデータを地域ぐるみで活用する動きも広がる。「自治体や農協などの農業指導専門員がデータを参考に農作業の改善や工夫につながるポイントを地域部会などにアドバイスしているケースが非常に多いようだ」(大畑氏)

センサで取得したハウス内の環境データはクラウドを経由して手元のスマートフォンなどから手軽に閲覧できる

 例えば、2014年5月には石川県小松市やJA小松市が中心となり、施設園芸部青年部に所属する5軒の農家がトマトを栽培する12棟のハウスにサービスを導入した。導入農家ではこれまで分からなかったハウス内の環境変化を把握して、品質向上につながるさまざまな方法を検討できるようになったという反響が寄せられている。小松市が起源の建設機器大手・小松製作所もこの導入を支援しており、地域全体で農業の活性化にITを活用する代表的な事例となり始めている。

NEC 新事業推進本部シニアエキスパートの大畑毅氏

 大畑氏によれば、今後はビニルハウスにおけるさらなるデータ活用のあり方やセンシング技術の新たな展開などを検討していく方針だ。また、露地栽培など屋外環境におけるIT活用の可能性も探っていくという。屋外環境では機器の電源やネットワークの確保、最適な設置方法といった点だけではなく、天候の変化など環境を制御することも非常に難しい。「屋外でのIT活用において成功した企業はまだ無い」と大畑氏は語る。

 データを可視化、分析して改善につなげる点は、まさしくビッグデータ活用ともいえるだろう。しかし大畑氏は、「農業でのIT活用は収穫量を短期間で倍増させるような“魔法の杖”ではない。農家の日々の活動に貢献する着実な取り組みが大切だ」と話す。

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