イベントにおける日立の狙いは、来場者にまんべんなく会場内を見てもらうことだ。日立側のもくろみとしては、会場内各所に設置したイベントを回るように来場者に動いてもらう予定だったが、通路の交差点で来場者がどの方向に進んだか、比率を出したところ、実際は日立の狙いと全く異なる動きをし、注目してほしいブースに人が向かわない構造になっていた。
野宮氏は「展示会場にいる人間ですら、現実空間で何が起こっているのか分かっていなかったのです」と振り返る。また、人の移動速度が落ちた地点の集計から、「イベント来場者は、T字路や曲がり角で足が止まる傾向があるものの、一直線の通路は速度を緩めないで歩く」という分析結果を得られたという。
「当たり前と思われていることも、改めてデータで示されることに価値があります。このほかにも、各展示における関心度合いは、コンテンツの内容だけではなく設置場所に影響される傾向が強いことも分かりました。何度も展示を繰り返して得られるノウハウも大事ですが、センサーを使った検証は1回で明確な答えが出るのがよいですね」(野宮氏)
関心度がコンテンツの内容に依存しないというのは、会場のレイアウトを工夫するなど、外的な操作でコンテンツへの注目をコントロールできるということでもある。初日の分析結果から、想定外の動線で来場客が動いていることを把握した日立は、2日目に動線を改善する対策を施した。交差点に矢印をつけた看板を設置し、会場奥のブースに客が来るように仕向けたのだ。
すると、人の流れが変わり、会場奥のブースに来る人が1日目より約860人増えたそうだ。「リアルタイムに分析を行えたので、すぐに次の日に施策を打てました。イベントの会期中に施策が打てないと意味がないですからね」(野宮氏)
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