セキュリティ対策に生かす情報活用の勘所萩原栄幸の情報セキュリティ相談室(3/3 ページ)

» 2014年11月21日 08時00分 公開
[萩原栄幸,ITmedia]
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ネットの記事をどう見抜く?

 別の事例になるが、ある時に筆者は朝出勤していきなりB社の部長から呼ばれた。「ちょっと来てください! 今日のネット記事にこう書いてあるのですが……」と聞いてきた。その記事を読んでみると、BYODを実施するための最低限クリアしなければいけない項目が記載されていた。なんと、30項目以上もあった。

 B社の部長は、B社が項目の半分ほどしかクリアできておらず、「これでは絶対に失敗する」と急に慌て始めた。筆者は、「記事ですし、執筆者のC氏は現場経験のない人物です。注目を浴びようと、あたかも経験があるように書いているだけですから、気にする必要はありません」となだめた。

 これと似たケースは少なくない。以前に、「HDDのデータは完全には消去できない」という人物がいた。何度かデータを上書きしても無駄といい、記事ではその根拠に古い技術論文を示した。しかし、技術は進化するものだし、後になって過去の論文が間違っていたということもある。

 筆者がその記事を掲載した会社に、「私の知る状況とは真逆であり、無視するわけにいかない。最近の技術に照らして根拠を示してほしい」と要望とすると、なんと執筆者はスキルがない単なる似非ライターであり、しかも他人から聞いた内容をあたかも自分のスキルのように記述したのだと分かった。

 インターネットの記事は確かに便利だ。ただ、やはり盲目的に信じてしまいがちであり、痛い目に遭った人もたくさんいる。特に技術系の記事はその傾向が強いかもしれない。

 せめてネットの記事に対しては、

  • 記事を掲載したWebサイトの信頼性
  • 記事を書いた執筆者の信頼性
  • その記事を書いた日時の状況
  • 内容が本人独自のものか、よそのものか?

 といった点を注意すべきだろう。

 特に見落としがちなのが「時間」だ。同じ執筆者でも、10年前の記事と最近の記事で全く反対の内容を記載している場合がある。著名な執筆者の記事だからといって、それだけを鵜呑みにしてしまうと誤る恐れがある。必ず最新の記事かどうかを調べ、可能なら執筆者にメールなどで確認すべきだろう。

 筆者の過去の記事でも、現在の視点から見直してみると、若干の誤りがあると思う。ネット記事には紙媒体にない良さ(即効性など)もあり、そうした特性も考慮しながら、上に挙げた点に注意していただきたい。

 人はともすれば活字に信頼を置いたり、大きな会場では講師の話を盲目的に信じてしまったりする傾向にある。それらを全て噛み砕きながらも、「真実は何か?」「事実なのか?」とよく見極めて行動することが大切だ。そのためにも日頃から多くの記事や講演に触れて、信頼を見抜く感覚を身につけてほしい。筆者も、「萩原の記事だから無視」というのはあまりに悲しいので、そうならない様に努力を重ねていくつもりだ。

萩原栄幸

日本セキュリティ・マネジメント学会常任理事、「先端技術・情報犯罪とセキュリティ研究会」主査。社団法人コンピュータソフトウェア著作権協会技術顧問、CFE 公認不正検査士。旧通産省の情報処理技術者試験の最難関である「特種」に最年少(当時)で合格。2008年6月まで三菱東京UFJ銀行に勤務、実験室「テクノ巣」の責任者を務める。

組織内部犯罪やネット犯罪、コンプライアンス、情報セキュリティ、クラウド、スマホ、BYODなどをテーマに講演、執筆、コンサルティングと幅広く活躍中。「個人情報はこうして盗まれる」(KK ベストセラーズ)や「デジタル・フォレンジック辞典」(日科技連出版)など著書多数。

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