人材不足は“量”ではなく“質”が深刻――ITスキル標準はどこへ行く2015年問題の本質を探る(5)(2/4 ページ)

» 2014年12月10日 07時00分 公開
[井上実,M&Iコンサルティング]

思想が異なる3つのスキル標準

 業界標準としてのスキル標準はITSSだけではなく、組み込み技術者向けの組み込みスキル標準(ETSS:Embedded Technology Skill Standards)もある。いずれも業界において必要な人材の職種やレベルを定義したキャリアフレームワークや、キャリア基準を中心に作成されたものだ。

 そのため、業界の変化に合わせて必要な人材も変わるため、職種やレベルの定義といったキャリアの基準は絶えず見直していく必要がある。ITSSは2003年リリース以来改訂を続けており、最新版は2012年3月にリリースされた「V3 2011」である。ETSSは2005年初版をリリース、2008年10月にリリースされた「2008」が最新版だ。

 これに対して、ユーザー企業向けに作られた情報システムユーザースキル標準(UISS:Users' Information Systems Skill Standards)は、策定のアプローチが他の2つとは異なっている。

 ユーザー企業のIT部門が果たす役割は、企業によって大きく異なる。必要とされる人材も企業ごとに異なるため、ITSSやETSSのように必要な人材の職種やレベルを定義するという方法をとっていない。IT関連の各タスクを洗い出し、それぞれで必要なスキルと知識を明らかにするというアプローチをとっており、IT関連のタスク、スキルの辞書を提供している形だ。

 UISSを導入する企業は、自社IT部門のタスクを、この辞書を活用して定義し、必要なスキルを明らかにした上で、各タスクを担当する職種(複数のタスクを1つの職種で担うこともある)を検討し職種やレベルを定義する。職種は基本的に各社で定義するものであり、UISSの人材像定義は標準ではなく参考にすべき資料でしかない。UISSは2006年にリリース後に改訂を進め、2010年3月にリリースした「V2.2」が最新版となっている。

3つのスキル標準と情報処理技術者試験の整合性をとるCCSF

 こうした思想の異なる3つのスキル標準と、従来からIPAが実施している情報技術者試験の整合性を図るために作られたのが、共通キャリア・スキルフレームワーク「CCSF(Common Career Skill Framework)」である。

 2008年に人材類型(レベル定義)と知識体系がリリースされ、3つのスキル基準と情報処理試験を整理した職種、レベル定義と必要な知識が設定された。2012年にリリースされた追補版では、タスクモデル、スキルモデル、人材モデルが追加され、知識体系の改訂が行われている。

 しかし、CCSFが作られたからといって、3つのスキル標準が1つになったわけではない。従って3つのスキル標準とCCSFを今後も改訂、維持、管理していく必要があり、大きなコストがかかると思われる。

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