逆転の発想で1割を9割の成果にした信用組合のセキュリティ強化策萩原栄幸の情報セキュリティ相談室(2/2 ページ)

» 2014年12月26日 08時00分 公開
[萩原栄幸,ITmedia]
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ところがどっこい!

 「還元資料プロジェクト」が組成されて2回目の会議にようやく筆者も出席できた。メンバーは次の手順で作業を進めようとしていた。

その1:全部署で還元帳票を洗い出し、帳票類の合計とそれぞれの管理部署を明確にして全体を把握する(つまり、還元帳票の責任部署がシステム側で把握されていなかった)。

その2:帳票類を「必要だがほとんどみていない物」「今まで認識すらしていないもの」に仕分けして、すぐに廃止しても良いものを分類する。

その3:部署が違うだけで、内容がほとんど同じ帳票類の統合・廃止を検討。すぐに廃止しても良いものは、検討中でも廃止する。

(例)B部では月次還元資料の1つに、月単位での支店別の定期獲得金額があった。C部に同じ様な資料があり、年齢構成別の定期獲得数があった。これらの帳票を1つにまとめて出力することで、関係するプログラム4本を廃止し、夜間バッチ処理の印刷時間を7分削減する。


その4:役員向けの資料などは原則として存続させ、部署ごとに検討を終えた帳票から種類を削減。レイアウト変更などで複数部署が共通して使える帳票にするなど、他のものは廃止する。

 これを聞いて筆者は思わず、「これはないだろう!」と叫んでしまった。まるで素人の発想だと感じたからだ。

 この手順を守れば恐らく内部帳票の1割程度を削減できるだろう。しかし、そんな成果で良いとは思えなかった。帳票の一覧を見ると、電子化を含めて最低でも全体の7割を削減できると直感し、紙としてなら9割の削減も楽にできるだろうと考えていた。

 なぜ、この方法はいけないのか――簡単にいえば、“引き算か、足し算の違い”である。プロジェクトメンバーの発想は“引き算”であり、今までの帳票から「何を削減できるか?」を考える手法だった。

 この発想を還元帳票の責任部署の視点でとらえてみると、ただでさえ多忙な状況の中、帳票類の棚卸しや整理をするという作業は非常に負担であり、どうしても楽をしたいと考えてしまう。プロジェクト側から「その帳票は本当に必要か」と聞かれて、分からなければ「必要」と回答してしまう可能性が極めて高い。

 しかも責任部署の担当者は2年ごと入れ替わる。新任の担当者が来るたびに、「こういう帳票があると便利だ」といって新しい帳票が次々に開発されていく。その多くは部署を跨いで横展開されることがなく、担当者が入れ替わると、そのまま“死蔵”されていく。そんな状況で「本当に必要か」と聞かれても、その時の担当者は安全を見込んで「〇」としてしまう。これでは抜本的な解決策にはならない。

逆の発想が糸口に

 そこで筆者は“足し算”方式の導入をプロジェクトのメンバーに提案した。つまり、帳票が全くない状況をベースにして、全ての部署と役員に「絶対に必要と思われる帳票の明細だけを申請してください」と伝える。「紙でほしい」という依頼には、「なぜ紙でなければならないのか」を明記させ、部門長の承認を必須にする。逆転の発想である。

 それ加えて、どうしても電子化する必要のある帳票は、帳票ごとに単純に画像イメージで表現するのではなく、月別から年度別、日別といったように、ある程度出力項目を選択できるデータベースにする。こうすることで、帳票類そのものを大幅に減らせる。

 こうした結果、A信用組合では紙の帳票の97%が削減され、電子化された帳票も母体としては従前の81%も減った。その後、半年ほど経ってどの部署からも大きなクレームは寄せられていない。コスト削減効果は、電子化システムの費用を除いて年間で数千万円にもなる。システム費用は1000万円程度だったので、1年もたたずに元が取れた格好だ。

 A信用組合はその成果を手放しで喜んだ。筆者としても、2014年に担当した事案の中でとても気持ちが良かった。読者の企業でも、2015年はぜひ二人三脚で大きな成果につながる取り組みを目指してみてはいかがだろうか。

萩原栄幸

日本セキュリティ・マネジメント学会常任理事、「先端技術・情報犯罪とセキュリティ研究会」主査。社団法人コンピュータソフトウェア著作権協会技術顧問、CFE 公認不正検査士。旧通産省の情報処理技術者試験の最難関である「特種」に最年少(当時)で合格。2008年6月まで三菱東京UFJ銀行に勤務、実験室「テクノ巣」の責任者を務める。

組織内部犯罪やネット犯罪、コンプライアンス、情報セキュリティ、クラウド、スマホ、BYODなどをテーマに講演、執筆、コンサルティングと幅広く活躍中。「個人情報はこうして盗まれる」(KK ベストセラーズ)や「デジタル・フォレンジック辞典」(日科技連出版)など著書多数。

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