社会課題の解決にビッグデータを活用するデンマークの取り組みビッグデータ利活用と問題解決のいま(1/2 ページ)

EU諸国は、スケールメリットを生かした低コスト戦略が主流のクラウド上で、ビッグデータならではの付加価値サービスを開発し、独自性を発揮しようとしている。今回は北欧の社会課題の解決先進国であるデンマークの事例を紹介する。

» 2015年01月14日 08時00分 公開
[笹原英司,ITmedia]

デンマークのベストプラクティスに学んできた日本の社会保障政策

 介護福祉サービスの分野には、障害があっても誰でも参加し、普通に暮らせる社会を目指す「ノーマライゼーション」という基本概念がある。この考え方は、デンマークのバンク・ミケルセンが「1959年法」の中で打ち出したものであり、スウェーデンのニィリエに引き継がれ、欧州諸国に広がった。その影響は米国の「ADA法(障害をもつアメリカ人法):1990年」や日本の「障害者プラン〜ノーマライゼーション7か年戦略〜:1995年」にも及んでいる。

 このような背景からデンマークは、日本の社会保障政策に関わる議論の場で、参照モデルとして紹介されることが多い。例えば、政府の規制改革会議の「第4回健康・医療WG資料『海外事例(デンマーク&エストニア)と日本の医療ITの在り方』(関連PDF:2013年5月)」、総務省の「平成25年版情報通信白書・第2章 ICTの活用による社会的課題の解決(関連PDF):2013年7月」、国土交通省の「国土政策局『デンマークの経済社会について』(関連PDF):2014年4月」など、様々な政府機関が取り上げており、これらの資料を読むとデンマークの状況をおおよそ把握することができる。

一元的な情報セキュリティ基盤が支える市民参加型の電子政府システム

 デンマーク政府は、ペーパーレス化、福祉サービスの電子化、公的部門間の連携強化を柱とする「電子政府戦略 2011-2015」を推進している。

 デンマークは、1968年にCPR(Central Persons Resistration)という国民共通番号制度を導入し、住民個人ごとに付与された一意の番号の下で、登録情報全体が一元的に管理できる仕組みを構築している。この個人識別番号とデジタル署名による個人認証システムを利用して、市民ポータル「Borger.dk」、企業ポータル「Virk.dk」、税金ポータル「Skat.dk」、健康医療ポータル「Sundhed.dk」、教育ポータル「EMU.DK」などの電子政府サービスが提供されている。

国民共通番号制度によるデンマークの市民ポータル「Borger.dk」

 各ポータルに係るプライバシー/個人情報保護対策は、政府から独立した決定権限を有するデータ保護庁が所管し、サイバーセキュリティ対策については、国防省のサイバーセキュリティ・センターが所管しており、欧州ネットワーク情報セキュリティ庁(ENISA)などと連携しながら運用管理を行っている。

 社会のICT普及率が高いデンマークでは高齢者、障がい者など様々な地域のステークホルダーが気軽に参加して一体的に活動できる場を提供する「インクルージョン」の考え方を電子政府に適用している点が特徴だ。

 早期の段階から実際にICTを利用する地域市民を巻き込んで、「バリアフリー」や「ユニバーサルデザイン」を反映させたシステムのアーキテクチャを設計していく手法は、高い国際競争力の源泉となっている。このような市民参加型の電子政府で培われたICT基盤上で、健康医療、農業・食品、エネルギーなど、自国の特色を生かした産業を育成・発展させることによって、経済全体の持続可能な発展につなげることがデンマークの成長戦略の柱になっている。

 健康医療分野では、全国16カ所に「スーパーホスピタル」を新設して機能を集約し、広域的に活用する計画が進行しており(インベスト・イン・デンマークのプレスリリースを参照)、健康増進に関連の深い農業・食品分野ではSEGES(旧農業ナレッジセンター)やデンマーク食品クラスターが積極的な情報提供を行っている。市民参加型の電子政府/オープンデータプロジェクトで培われたセキュアであり、標準化されたICT基盤の技術や経験/ノウハウが、業種・業界の枠を超えて活用できるのは、デンマークの強みだ。

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