社会課題の解決にビッグデータを活用するデンマークの取り組みビッグデータ利活用と問題解決のいま(2/2 ページ)

» 2015年01月14日 08時00分 公開
[笹原英司,ITmedia]
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デンマークのICT基盤を活用する海外のビッグデータ企業

 デンマークは、ビッグデータ利活用の分野でも国家的な目標や課題をテーマとした産学官連携クラスターや、ユーザー参加型の実証実験(ユーザードリブンイノベーション)、オープンデータ利用環境の整備などを進めている。

 日本では厚生労働省の「レセプト情報等の提供に関する有識者会議」や、内閣府の「規制改革会議」が中心となってナショナルデータベース(NDB)の有効活用に向けた議論を行っている段階だが、デンマークではNDBから具体的な成果が生まれている。

 例えば、2014年6月24日付の英科学誌ネイチャーコミュニケーションズで、デンマーク工科大学、コペンハーゲン大学、ニューメキシコ大学(米国)、ヨーテボリ大学(スウェーデン)などの国際共同研究チームが、デンマークの全人口をカバーする電子カルテシステムから収集した患者620万人分の国民医療データベース(デンマーク全国患者登録)を用いて、特定期間における主要な病気(1171種類)の進行状態や相互関係を解析した結果が発表されている(「Temporal disease trajectories condensed from population-wide registry data covering 6.2 million patients」参照)。

620万人のデータの内訳。病気の種類や受診状況、性別、年齢分布でみたもの(出典:Temporal disease trajectories condensed from population-wide registry data covering 6.2 million patients)

 そして、欧州域外の海外企業がデンマークのビッグデータ基盤を利活用する動きも加速している。例えば、米IBMはデンマーク国内にヘルスケアコンピテンスセンターを設置し、ライフサイエンスから医療現場に至るまでの健康医療バリューチェーン全体に関わるソリューションの研究開発を行っている。人材育成の面では、デンマーク工科大学と提携してデータサイエンティスト育成プログラムを支援しており、同大学は2015年春から北欧初の「IBM Watson」コースを開始する予定だ(「DTU to teach the artificial intelligence 'Watson')」参照)。

 Cisco Systemsは、IoT技術の観点からデンマークに注目しており、2014年6月にコペンハーゲン、アルバッツロン、フレデリックスンの3自治体と、未来のデジタルインフラ「Internet of Everything」の開発に向けて覚書に調印したことを発表している(「デンマークの3都市、Ciscoとのビッグデータ共同プロジェクトに調印」参照)。

 デンマーク政府は、2012年にコンティニュア・ヘルス・アラアンスのガイドラインを採用した「遠隔医療行動計画」を策定することを発表しており、Cisco Systemsも各自治体との官民連携パートナーシップ(PPP:Public-Private Partnership)による遠隔医療関連プロジェクトを展開している(在米国デンマーク大使館プレスリリース参照)。

 他方、日本企業の中にもデンマークで研究開発を行うケースが出ている。例えば、ロボット技術の分野では2011年6月、テムザックがデンマークのファーボー・ミッドフェン市に研究開発拠点を開設し、高齢者がいつでも簡単に介護者や家族と連絡できる遠隔操作ロボットの社会実験を開始した(「テムザック、デンマークで新しい福祉介護ロボットの実証実験を開始(関連PDF参照)。

電動車いすの「NRR」(出典:NEDO)

 その後、2014年11月にテムザックは、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)、NTTドコモとともに、コペンハーゲン市とファーボ・ミッドフュン市の介護・福祉施設、高齢者住宅およびリハビリセンターで、福祉機器ロボットの電動車いす「NRR」による実証試験を開始している(「電動車いす『NRR』を開発、デンマークで実証へ)」参照)。テムザックは「NRR」の本体部分について、欧州委員会の基準適合マーク「CEマーキング」に適合していることを宣言しており、最初からグローバル市場展開を念頭に置いた臨床開発戦略が注目される。

 また、ビッグデータの分野では日立製作所が2014年3月、デンマークに「環境・エネルギー」「トランスポート」「ヘルスケア」を柱とする「デンマークビッグデータラボ」を設立する計画を発表し(「デンマークにビッグデータラボを設立」参照)、同年11月には「スーパーホスピタル構想」の中核病院であるビスペビャー・フレデリクスベー大学病院と共同で、設備データと人間行動データを連携した次世代病院運営などを中心とする新たなソリューション開発に向けた検討を行うことを発表している(「デンマーク ビスペビャー・フレデリクスベー大学病院と日立が、ITを活用した経営効率向上のためのソリューション共同開発に向けた検討開始に合意」参照)。

 日本国内でも、2006年11月からコンティニュア・ヘルス・アライアンスの地域委員会が活動しており、2014年12月には、筑波大学がビッグデータ人材の育成で日本IBMと協業することを発表する(「ビッグデータを活用するための人材育成を支援」参照)など、ビッグデータの可能性を引き出す要素技術や資源の整備は進んでいるが、社会課題解決のための付加価値サービス開発ではデンマークが先行している。この差分をどうやって埋めるかが日本のビッグデータの課題だろう。


 次回は、社会インフラのビッグデータ利活用を推進するオランダの事例を取り上げる。

著者者紹介:笹原英司(NPO法人ヘルスケアクラウド研究会・理事)

宮崎県出身、千葉大学大学院医学薬学府博士課程修了(医薬学博士)。デジタルマーケティング全般(B2B/B2C)および健康医療/介護福祉/ライフサイエンス業界のガバナンス/リスク/コンプライアンス関連調査研究/コンサルティング実績を有し、クラウドセキュリティアライアンス、在日米国商工会議所などでビッグデータのセキュリティに関する啓発活動を行っている。

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