全社Wi-Fiとフリーアドレス、オフィスデザインの専門集団が取り組んだ“働き方が変わる”オフィスとは?新しい働き方、新しいオフィス(2/3 ページ)

» 2015年02月27日 16時00分 公開
[岡田大助,ITmedia]

「自分のデスク」がなくなったからこそ分かったこと

 フリーアドレス化するとどこでも働けるようになる半面、なくなるものもある。例えば、自分のデスク、引き出し。亀田氏は部門の長という立場でもあり「個人の座席がなくなると、手元に資料を置いておけなくなること」に抵抗感があったという。

 「いくらなんでも書類をキープしておくスペースがないのは困るだろうと思いましたね。でも、実際にはよほどのことがない限りデータ化できます。むしろ、情報が古くなって使えない書類を大量に持ち続けていたことに気付きましたよ。それなりの賃料を払っているオフィスです。無駄な資料で貴重なスペースを潰してしまうのは本末転倒です」

 ストックの割り当ては1人あたり1ファイルメーター(キャビネット1段、横幅950センチ)に制限された。私物もノートPCを充電するためのコンセントを内蔵した個人ロッカー1つに納めなければならない。こうなると、例えば使っていないボールペンを大量に抱えておくことはナンセンスとなり、共用の文房具ステーションが有効活用され始めた。

 もちろん、書類によっては一定年数の保存義務があるものもある。それらは手元にデータだけを残し、原本は賃料の安い外部の倉庫で保管しているそうだ。また、デザイン事務所ゆえに資料や図面、模型などがなくなることはない。そこでプロジェクトごとに専用のキャビネットを用意した。ただし、プロジェクト名の横には終了期限も明示され、それを過ぎても放置されているものは1週間程度で強制的に廃棄されてしまうそうだ。

The PALETTE 書類などを置いておけるのは1人当たりキャビネット1段まで
The PALETTE プロジェクトごとのキャビネットは使用期限が定められている

なぜフリーアドレス化が必要だったのか?

 「本来、個人のデスクは会社から貸与されたスペースのはず。にもかかわらず、それを『自分の城』のように感じて私物化してしまう人が多い。そして自分の城に籠って仕事をするようになり、余計なものまで貯めこんでしまう。また、部門ごとに島をつくってしまうと、他部門と仕事をするときに『自分はヨソモノだからと』という違和感が残り、相手との距離を感じてしまうことも」(亀田氏)

 事前に調べてみたところ、平常時の在席率は約45%。つまり、デスクを個人の占有スペースに割り当ててしまうとオフィスの半分が死蔵されることに等しい。フリーアドレス化によって、137席あった固定席は20席(約85%減)になった一方で、32席しかなかった自由席は147席になった。従業員からは自席がなくなったという不満よりも、「使えるデスク面積が広くなった」という満足の声のほうが多いそうだ。

The PALETTE テーブル中央の観葉植物が適度なカベになって絶妙な距離感を演出する

 また、部門のメンバーが全員おさまれるサイズの円形劇場のようなミーティングスペース「FUTURE MAPPING」や、部門を超えたメンバーが気楽に会議を行える大テーブルを配置。立ち話のように打ち合わせができるハイカウンター、柱の周りに張った自由に書き込めるガラスボードなど会議のカタチも多様化させている。

 「打ち合わせができる場所はわざと閉ざしていません。例えば、FUTURE MAPPINGで何かプレゼンテーションをしていて人が集まっていれば、自然と気になって目がいってしまうように設計しました。なるべく情報が漏れ聞こえてくるようにすることで、『隣の人が何をしているのか』が分かる空間を目指したのです。普段から『この人はどんな仕事をする人』ということが分かっていないと部門を超えた仕事に参加しにくいですからね」

The PALETTE 円形劇場のような「FUTURE MAPPING」。社内外のセミナーイベントやプレゼンの練習の場としても活用

 ただし、顧客情報など秘匿すべき情報を交換する場合は、別フロアにある既存の会議室を使ったり、クワイエットエリアの奥に設けた特別な個室を使う。ただし、The PALETTEで働くスタッフの姿を社内の別の事業部のスタッフが見るようになって、会議室のあり方についての議論が全社的に広がっているという。

「とはいえ、オフィス空間が騒がしいかといえばそうでもないのですよ。やってみて分かったのは、むしろこういう空間だから、お互いに適度な音量で話すようになります。私語がうるさくなる理由は、いつも同じメンバーと同じ場所に固定されていたからかもしれませんね」

The PALETTE 集中したいときはクワイエットゾーン「THE BOX」にあるこのイスが人気。窓の外に視線を向ければ東京タワーも見える

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

注目のテーマ