転勤や退職で知っておくべき情報セキュリティ萩原栄幸の情報セキュリティ相談室(2/3 ページ)

» 2015年02月27日 08時00分 公開
[萩原栄幸,ITmedia]

退職者は?

 退職する場合は、前述の転勤者の注意事項に加えて次のことに注意する。

1:名刺の取扱い

 以前は、退職者が自分の名刺を返還することは、あまり積極的には行われていなかった。ただし、最近は様変わりしていている。記念に1枚程度というなら許容範囲かもしれないが、ヘタをすると訴えられかねない事態も起こり得る。できれば自ら返却した方がいい。

2:競合他社への就職

 これは情報セキュリティというより、転職者が注意すべき事柄だろう。単なる従業員ならあまり問題にはならないかもしれないが、会社の新製品に関わる中心人物だったり、昇格して役員になったりした立場なら、「競合避止義務」が生じる場合がある。一般の従業員なら個人の「職業選択の自由」が憲法で保障されており、競合への転職を禁止する会社の誓約書(雇用契約書に「1年間は競合他社への転職はできない」「次の会社への転職は会社が認めない限りはできない」と書かれていることもある)に署名していても、会社がその権利を主張するのは難しい。だが役員なら、辞任する場合にその誓約書の中に具体的な企業名を書かれて、トラブルになったケースもあった。必ず前職の会社から合意を取り付けて行動するのが望ましい。

3:転職先への手土産(情報提供)

 その昔、例えばA自動車の営業マンがB自動車に転職する際に、手土産でA自動車の顧客名簿をコピーし、根こそぎB自動車の顧客にしてしまうこともあったようだ。しかし現在は、そういう行為が発覚すると、A自動車からは多額の損害賠償を請求され、B自動車からは解雇される。絶対にしてはいけない。顧客情報以外でも、A自動車で得た情報は活用しない方が賢明である。ただし、“職人さんの技”などについてはその範疇には入らない。厳密には、どこまでが不正競争防止法の対象や会社の「営業秘密」になるかはケースバイケースだ。それらに該当する要件を満たしているかなど、細かな確認が必要になる場合もある。

4:「労働債権不存在確認書」がある場合

 時々見かけるのが「労働債権不存在確認書」だ。これは企業側が提示して退職者が署名するもので、退職時には、既に決まった「対価」以外には何も存在しないという確認である。残業代の未払いなど、後で問題になるケースなどについて企業側が事前にそのリスクをなくすものである。退職時に求められたら、自分で良く考え、特に何もないのであれば署名すればいい。問題なのは、残業代というより残業時間そのものが申告と実績で大きく異なる場合などだ。もし署名したくない場合は、労働基準監督署や専門家に相談する方がいい。

5:「誓約書」について(企業側からみた退職者に対する注意事項)

 近年は大半の企業が退職時の誓約書を作成し、退職者に署名させるようになっている。最も多いのは「秘密保持に関する誓約書」であり、退職後もその企業内で知り得た情報を外部に漏らさないとか、営業秘密事項について他社に渡さないなどの規定だ。また、退職後に不正や過誤が発見された場合はたとえ部外者の身であっても損害賠償に退職金を充当できるケースや、企業年金についてその責任の範囲で減額できるとしたものもある。これらについて企業は、弁護士と協議しておく。厳密に記載しなかったばかりに、退職者の不正が発覚しても退職金を支給せざるを得ず、悔しい思いをした社長を筆者は知っている。

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