「拠点間の距離」が意外な武器に――ある食品メーカーの風土がガラリと変わった理由連載・企業内SNSの“理想と現実”(1/2 ページ)

中国に現地法人を立ち上げたものの、営業スタッフ間の“物理的な距離”が遠すぎてノウハウがたまらない……そんな食品メーカーの悩みを打開した社内ソーシャル活用法とは? 社内ソーシャルの導入事情に詳しいサイボウズ・伊佐政隆氏による寄稿連載の第3回(後編)。

» 2015年03月05日 08時00分 公開
[伊佐政隆ITmedia]
  連載「企業内SNSの“理想と現実”」目次
第1回 なぜ日本企業は「社内ソーシャル」導入に失敗するのか
第2回 順風満帆に見えたA社・B社が失敗に終わった理由
第3回 成功事例に見る「社内ソーシャル活用の方程式」(前編・後編)
第4回 社内ソーシャル導入に失敗しない5つのステップ
第5回 社内ソーシャル導入成功の“その先”

 企業内での新たなコミュニケーション手段として注目を集めている「社内ソーシャルシステム」。本連載ではこれまで、ニーズがあるにもかかわらず導入失敗が後を絶えない社内ソーシャルの現状や、その原因と対策などについてお伝えしてきました。

 今回は、具体的な成功事例をご紹介した前回(第3回・前編)に続き、サイボウズ製品をお使いいただいている企業様の取り組みを例に“社内ソーシャル導入成功の秘けつ”を考察していきたいと思います。

現場の情報がなかなか上がってこない…… ある経営者の“決断”

 前回の記事では、ビジネスの現場における情報共有を改善した2社の取り組みについて紹介しました。しかし、社内ソーシャルが企業にもたらす効果は「現場の情報共有」だけではありません。今回はまず、社内ソーシャルで組織の風土そのものを変えた事例をご紹介しましょう。

photo ※写真はイメージです

 デザイン業界の専門商社であるこの企業の社長は、ある課題を抱えていました。創業初期から展開してきた「デザイナー向け物品販売ビジネス」のニーズが落ち込む中、意思決定プロセスに顧客の声を取り入れる必要があると考えていたそうです。

 「創業初期からのビジネスモデルが崩れつつある中、われわれが次に何をすべきかを教えてくれるのは、長らくごひいきにしてくださっているお客さまだけ。つまり、全国の営業社員が現場で得た“お客さまの声”がすぐに経営層まで伝わる会社に変わらなければ、当社は生き残れないと考えていました」(同社社長)

  そこで同社は、全社を包む“風土”の刷新に取り組みます。経営者が現場の状況をすぐに把握できることを目指し、「自社の問題」や「経営層の目指す企業風土」を掘り下げて分析していきました。その結果、現場の声が経営側に集まるような風土を作るためには、経営者が現場から強く信頼される必要があると気付いたそうです。

 現場からの信頼を得る――このために次に行ったのは、社内のコミュニケーションを可視化し、意思決定の背景を“見える化”することです。これを実現するために選んだのが、社内ソーシャルの仕組みを取り入れることでした。

 具体的には、従来ならメールや電話などで行っていた業務上の情報共有を、全てグループウェア「ガルーン」で行うように徹底。ガルーン内の社内SNS機能「スペース」でコミュニケーションすることで、社員の誰もが情報を閲覧できるようにしました。さらに、社長自身もガルーン内の掲示板で「社長が考えていること」を毎週伝え、グループウェア上で社員と意見交換を行うようにしました。

photo 掲示板での社長のつぶやき

 こうして社内コミュニケーションが可視化された結果、経営層に情報が集まってくる企業風土が生まれたそうです。そればかりか、各部署が垣根を越えて協力し合う“組織横断的”な動きも生まれるように。今では社員が他部署との連携が必要になるたびに、自然とグループウェア上にプロジェクトページを立ち上げる文化が根付きつつあるそうです。

ここがポイント:「導入目的」と「使ってもらう工夫」

社内ソーシャル導入の目的

  • 社内の意思決定プロセスを見える化すること

成功をもたらした工夫

  • 単なる「部門を超えた情報共有」を目的とせず、目的をさらに深堀りして「意思決定プロセスの見える化」にまで落とし込んだこと
  • トップが自身の意志を徹底し、それを社員にも定着させたこと

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