そして、ソリューションのノウハウを溜めるためにNECが選んだのが「シンガポール」だ。同社はシンガポールを「革新的なイノベーションの創出に最適な地」としているが、その理由は3つある。
まずはシンガポールの経済政策だ。「シンガポールは国土が狭く資源が少ないため、1970年前後から国家が積極的に海外企業を誘致し、計画的に産業を発展させてきました。重化学、金融、そして今は技術提供で収益を得る、技術貿易国家を目指しています」(山田氏)という背景があり、外資系企業の参入規制が低く、税制や手続きの面でもさまざまな優遇措置がある。
このような政策はEDB(経済開発庁)が積極的に進めている。近年は特にR&D投資を拡大しており、2015年は前年比で20%程度増資し、GDP比3.5%(約105億ドル)という巨額の投資で新産業の育成を支援するという。
2つ目は、社会ソリューションの実証実験を行いやすい環境が整っていることだ。シンガポールは政府が社会課題、特に都市課題に積極的に取り組んでおり、ソリューションの実証実験を行う際に政府が支援してくれるという。
「シンガポールは“最先端ICTインフラを整備し、新産業を育成する”という長期計画があるため、実証実験を行うためのインフラも整っています。シンガポールには、グローバルで通用するソリューションを作るために必要な“世界基準”の社会課題があると言っていいでしょう。また、ソリューションの実証実験を日本で行おうとすると、手続きや法律などの問題でできないというケースも少なくありません」(山田氏)
また、ソリューションをグローバル展開することを見据えた際に、英語で開発を進められることも大きなポイントだ。「品質へのこだわりも含めて、日本はやや特殊ですね」と山田氏は話す。
3つ目はNECが目指す“オープンイノベーション”を推進しやすい点である。技術立国を目指すシンガポールは、MIT、イエール大学、テンプル大学、ニューヨーク大学といった有名大学の分校を誘致するなど、国内外で優秀な人材を集めている。「大学や現地の研究機関、パートナー起用、政府などさまざまな団体とコラボレートし、プロシェクトごとに最適なチーム体制を作ることができます」(山田氏)という。
このようなシンガポールの特長により、
という一連の研究開発プロセスができあがる。山田氏もこの取り組みの手応えを感じているようだ。「1年半ほどが経ちましたが、ICTが社会に貢献する良いサンプルができてきたのではないかと思っています」(山田氏)
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