隣の席にいるような臨場感をLyncのWeb会議で ダンクソフト、テレワーク成功の秘けつ(2/2 ページ)

» 2015年03月24日 09時00分 公開
[やつづかえりITmedia]
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「失敗」で気づいたインフラの重要性

Photo ダンクソフト代表取締役CEO兼新しい働き方インテグレーターの星野晃一郎氏

 社員が柔軟にワークスタイルを選べる、余暇を大切にするなど、現在のダンクソフトはとても働きやすい会社という印象を受けるが、10年前は徹夜仕事も珍しくない「よくあるIT企業」だったという。

 変化のきっかけは、星野氏が参加していた経営者の集まりで「定常的に15%成長する」というミッションを与えられたことだった。会社は20年続いていてそれなりに回っていたものの、毎年15%の成長を続けていくためには、大きな変革が必要だ。

 「ITやクリエイティブ業界は人が資本。働きやすい職場の実現が成長の鍵になる」と考えた星野氏は、社員からボトムアップで会社の問題点を挙げさせ、就業規則の作り直しに取りかかった。

 2008年には、伊豆高原に初めてのサテライトオフィスを開設。2人の社員が常駐し、地域に根ざしたNPOの活動とダンクソフトの業務を並行して行うという先進的なワークスタイルを実践した。この取り組みについて星野氏は、「テレワークという観点で見ると失敗だった」と振り返る。

 失敗の原因は通信環境にあった。当時利用できた通信インフラはADSLで、ファイルを送るのもままならず、ましてやオンライン会議など望めるものではなかった。そうなると、コミュニケーションの手段はメールと電話ぐらいとなり、互いの様子が伝わりづらく、業務を円滑に行うことが難しかったのだ。

 この経験から「(離れた場所で働く場合の)コミュニケーションの大切さがよく理解できた」と星野氏。これを踏まえて、後にデータセンターとBCP(事業継続計画)対策を兼ねたサテライトオフィスの候補地を探すことになったときには、充実したブロードバンド環境が整備された徳島県を対象にした。神山町の実証実験ではLyncを試し、遠隔地の相手とも臨場感のあるコミュニケーションができる環境づくりにこだわった。

コストパフォーマンスのよさでLyncを選択

 より高価なテレビ会議システムを導入すれば臨場感は更に増すかもしれないが、ダンクソフトではコストパフォーマンスを重視してLyncを選択した。1人あたり月額600円と低コストで、Webブラウザがあれば利用可能なクラウドサービスであることから、導入や運用の手間も少ない。

 通信状況が悪ければ自動的に映像の解像度を落とすといった通信環境に最適化する機能が良くできている、ファイル共有やデスクトップ共有ができる、最大250カ所との接続が可能であるなど、多拠点間のコミュニケーションに適したサービスであることも採用の決め手になったと星野氏。オンライン会議システムのほかにも、在籍確認機能やチャット機能も便利に使っているという。

常につながっているのは、“苦痛”か“安心”か

 今回の取材を通じて分かったのは、通信インフラや利用するツール、どう工夫して使うかによってテレワークの成否が大きく左右されることだ。

 これからテレワークを導入しようという企業の場合、最初は小規模で始めてみる企業も多いだろう。そのような場合でも、遠隔コミュニケーションをスムーズにできる環境や、それをうまく運用するためのルールの整備はとても重要になる。なぜなら、準備が不十分だと上手くいかなかった場合に、それが環境のせいなのか、業務自体がテレワークに適さないことが原因なのか、適切な判断がしづらくなってしまうからだ。

 また、ダンクソフトでは社員同士が常にWeb会議システムでつながっていることで、コミュニケーションが円滑になっているが、こうした在宅勤務の様子を、“常にオンラインで見られている”という状況については、窮屈に感じる人もいるかもしれない。

 しかし、上司や同僚から見えない場所で働いていると、正当な評価をしてもらえないのではないかという不安が生じがちなのも事実だ。「評価を得るためにはアウトプットが重要」という思いから、在宅勤務者はついオーバーワークになってしまうという話もよく聞く。きちんと仕事をしている人であれば、常にオンラインにして仕事ぶりを見ていてもらえることで安心できるという側面もある。

 リアルタイムの映像はさらに、メールやチャットでのやり取りに比べて格段に多くの情報が得られるという利点もある。

 徳島でテレワークをしているダンクソフトの社員に聞いたところ、メールや出張でコミュニケーションをとっていた時期は、「メールだと場の空気が伝わりづらく、出張は時間がかかる」ことから、ちょっとしたやり取りがしづらかったと振り返る。映像で常に相手の様子が見えるようになると、話しかけやすく、相手の顔色を見て元気かどうかも分かるなど、常につながっているメリットを大いに感じているようだった。


 よりリアルなコミュニケーションを図るためには、高価な機材が必要だと思われがちだが、ダンクソフトの事例を見ると、知恵と工夫で乗り越えられる課題も多いことが分かる。

 本格的な人手不足の時代が間近に迫り、企業の大小にかかわらず“いつでもどこでも働ける環境作り”に取り組んでいかなければならない今、安価で手軽に導入しやすいクラウドサービスの存在は、大きな助けになるに違いない。

やつづか えり

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 1999年一橋大学卒。2009年デジタルハリウッド大学院修了。コクヨおよびベネッセコーポレーションで11年間勤務の後、フリーランスに。企業に対する教育系Webサービスやアプリの企画・開発支援を行うと同時に、組織人の新しい働き方、暮らし方を紹介するウェブマガジン『My Desk and Team』を運営中。さまざまな組織人にインタビューをし、多様な働き方、暮らし方と、それを実現するためのノウハウを紹介している。


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