“これってパワハラ?” そんな恐怖に負けない上司になるために上司はツラいよ(2/2 ページ)

» 2015年04月02日 09時00分 公開
[田中淳子ITmedia]
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 厚生労働省が公開している「職場のパワーハラスメント 対策ハンドブック」によれば、パワハラの定義は次の通りだ。

「職場のパワーハラスメント」とは、同じ職場で働く者に対して、職務上の地位や人間関係などの職場内の優位性を背景に、業務の適正な範囲を超えて、精神的・身体的苦痛を与える又は職場環境を悪化させる行為。

 これを見ると、パワハラ問題の難しさが見えてくる。定義のポイントとなるのは、太字で示した“業務の適正な範囲を超えて”という部分なのだが、ここの明確な線引きが難しいのだろう。例えば、上司がある部下の振る舞いについて“これは改善すべき”と注意し、指導したとしよう。でも、部下がそれを“適正な範囲を超えている”と思ったら最後、パワハラ委員会やパワハラホットラインなどに訴えられてしまう。この業務の適正な範囲という言葉は、当然個人個人でとらえ方が異なるので厄介だ。

 しかし、だからといって、冒頭の新米管理職たちのように、パワハラだと通報されるのを恐れて“正しい指導ができなくなってしまう”のも大きな問題だ。そもそもAさんのケースでは、新入社員が自分の仕事ぶりを棚に上げて、「ハラスメント」扱いしたところに問題がある。相手のためを思って行った指導をパワハラ扱いされてしまったのでは、上司はツラいし浮かばれない。

パワハラを恐れず部下を育てるためにすべきこと

 上司がパワハラを恐れず部下を育て、きちんと成果を出すよう導くためにはどうしたらいいのか。

 1つは、基本中のキホンとして、とにかく会話の総量を増やすことだと思う。人間関係が希薄で、めったに会話を交わさない間柄では、ちょっとしたことが誤解やあつれきを生むものだが、普段から意思の疎通ができており、きちんとした信頼関係が築かれていたら、大きな問題は起こりづらい。人は、理解されていると思う相手には親密度が増し、許容度が高くなる傾向がある。

 「おはようございます」ときちんと挨拶をする。「プロジェクト、どういう状況?」「この前話していた件、どうなった?」というように部下のことを気にかけ、ちょっとしたことでも頻繁に会話を交わす。すべてを電子メールで済まさず、できるだけ、顔をつきあわせて話す機会を持つようにする――。そうやって地道に関係を構築し、信頼を得られる状態を作れば、たとえ上司が多少厳しいことを言っても、部下は「〇〇さんの言うことだから」と素直に受け止められるだろう。

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 部下にあえて「丁寧語」で話しかけるというのも、パワハラ扱いを未然に防ぐ方法の1つ。人は話の内容だけでなく、“言い方”から過剰なメッセージを受け取ってしまうこともあるからだ。

 「これ、やって!」「この件、すぐ報告して!」「あれ、どうなってる?」というラフな言葉づかいをやめ、「これ、お願いできますか?」「この件、すぐ報告してください」「あれ、どうなっているか教えてください」という丁寧な言葉で接する。言葉づかいを変えるだけで、相手に与える印象も大きく変わってくるはずだ。

 最後に、自分の言動が“パワハラかどうか”が気になる人のために、厚生労働省が配信しているパワハラ対策の学習動画を紹介する。新年度が始まる4月を前に、改めて学び直してみてはいかがだろう。

著者プロフィール:田中淳子

田中淳子

 グローバルナレッジネットワーク株式会社 人材教育コンサルタント/産業カウンセラー。

 1986年上智大学文学部教育学科卒。日本ディジタル イクイップメントを経て、96年より現職。IT業界をはじめさまざまな業界の新入社員から管理職層まで延べ3万人以上の人材育成に携わり27年。2003年からは特に企業のOJT制度支援に注力している。日経BP社「日経ITプロフェッショナル」「日経SYSTEMS」「日経コンピュータ」「ITpro」などで、若手育成やコミュニケーションに関するコラムを約10年間連載。


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