この、“自分で動きたくなる衝動”は、どこから来るのか。ある経営者はこんな風に表現していた。
彼は現場で優秀なプレイヤーだった人材をマネージャーに昇格した場合、ひとまず“修業の時期”ということで、行動を見守るという。多くは自分で悩み苦しんでプレイヤーから脱皮していくが、中にはいつまでたっても“プレイヤーとしての自分”を捨てきれず、自分でやってしまうタイプがいると話す。
「そういう新任マネージャーを見ていると、“プレイヤーとして成仏できるかどうか”が優秀なマネージャーになる最初の関門だと思うんですよ」
なるほど。いつまでも“プレイヤーとしての自分”を愛してやまない様子は、成仏できない霊に似ている。本来なら、「なんでも対処できる自分ってかっこいい」などというプレイヤー気分は捨てて、「自分がいなくなってもチームがちゃんと回るように」人を育て、体制を整えておくことにこそエネルギーを注ぐべきなのに、それができない理由はここにある。
プレイヤーから卒業させ、“マネージャー職を愛せる”ようにするには、どうすればいいのか。
まずは、同じ時期にマネージャーになり、きちんと部下を育てている人と対話させることだ。プレイヤーを卒業するきっかけになったエピソードを聞いて、自分のものの見方や振る舞いが偏っていることに気がつけばしめたものである。
“抱え込みマネージャー”の部下を集め、本人を前に「管理職に期待することは何か?」と問いかけさせるのも1つの手だ。あるマネージャーは、新任マネージャー時代に部下から「どんと構えていて、いざという時に助けてほしい。プレイヤーと同じレベルで動き回らないでほしい」と言われたことをきっかけに“成仏”し、自分の振る舞いを180度変えたそうだ。
新任マネージャーにとって、仕事を早く処理できて手がかからず、しかも自分の力を発揮できる「抱え込み症候群」は、甘い蜜のようなもの。しかし、こうした“替えが効かない属人的なやり方”は、長期的に考えると危険きわまりない。もし、部下の中に“抱え込みマネージャー”を見つけたら、「あなたの手柄は、部下に手柄をあげさせること」と諭し、自分で手柄を上げても評価されない立場になったことを伝え続けることだ。
それでも意識を変えられないなら、プレイヤーとしての現世に戻し、成仏できるまで「自分の成果」を精いっぱい追求してもらうのも1つのやりかたかもしれない。
グローバルナレッジネットワーク株式会社 人材教育コンサルタント/産業カウンセラー。
1986年上智大学文学部教育学科卒。日本ディジタル イクイップメントを経て、96年より現職。IT業界をはじめさまざまな業界の新入社員から管理職層まで延べ3万人以上の人材育成に携わり27年。2003年からは特に企業のOJT制度支援に注力している。日経BP社「日経ITプロフェッショナル」「日経SYSTEMS」「日経コンピュータ」「ITpro」などで、若手育成やコミュニケーションに関するコラムを約10年間連載。
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