部下たちに話を聞いてみると、「上司や先輩は、何のために働いているんだろうと思うことがあります」「目の前の仕事のことだけでなく、なんかこう、大きな夢について聴いてみたい」「中期経営計画みたいな話じゃなくて、上司や先輩自身の言葉で“これから目指すところ”について話してほしい」という答えが返ってくることがある。
自分なりの夢や想いを話すことができれば、マネージャや先輩の人となりを知ってもらうことにもつながるし、何よりも部下のモチベーションを高めるのにも役立つ。
例えば、ある製薬会社のマネージャが、こんな風に仕事への想いを話してくれたことがある。
「世の中には、私たちが作る薬を待っている大勢の患者さんがいる。私はそんな患者さんたちの命と生活に影響を与える重要な仕事をしていると思っている。できるだけ早く良い薬を世の中に出していきたい。大勢が少しでも幸せな人生を生きられるように」
部下がこの話を聞いたら、きっと自分のしていることを“作業”や“タスク”などと思わず、“想いを持った仕事”として懸命に取り組むことと思う。
このマネージャのような、かっこいいことをいえなくてもいい。しかし、働いているのが単に「お金のため」「生活のため」という答えだけではつまらない。自分は仕事を通じて「何を目指し」「何を実現したいと思い」「どんな使命感を持っているのか」を“自分らしい言葉”で説明できれば、部下たちの心にも響くはずだ。
そうはいっても、“夢”や“想い”を言葉にするのは案外難しいと思う人もいるだろう。その場合は、自分が会社に入社したばかりの時のことを思い出してみるのも1つの手だ。
例えば、ある新入社員のこんな「自己紹介」を聞くと実感がわくかもしれない。
「ぼくがIT業界をめざし、ITの技術者になろうと思ったのは、ITが世の中のあらゆるところに関わる技術だと思ったからです。ITを介して、世の中の仕組みやシステムの変化、進化に大きく関わっていけると思って、とてもワクワクしています」
今やベテランと言われるようになった自分にも、仕事を通じて世の中に届けたい価値や、この世界に遺したい足跡のようなものがあったことを思い出せるかもしれない。
このような想いを部下たちに話してみれば、「ああ、上司は、こんな“夢”を胸に働いているのだな」「先輩はこんな“想い”を抱きながら仕事しているのか」と受け止めるのではないか。そして、それは、若手自身が仕事へのやりがいを発見するきっかけとなるように思う。
グローバルナレッジネットワーク株式会社 人材教育コンサルタント/産業カウンセラー。
1986年上智大学文学部教育学科卒。日本ディジタル イクイップメントを経て、96年より現職。IT業界をはじめさまざまな業界の新入社員から管理職層まで延べ3万人以上の人材育成に携わり27年。2003年からは特に企業のOJT制度支援に注力している。日経BP社「日経ITプロフェッショナル」「日経SYSTEMS」「日経コンピュータ」「ITpro」などで、若手育成やコミュニケーションに関するコラムを約10年間連載。
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