新幹線での焼身自殺をセキュリティ視点で考察すると……萩原栄幸の情報セキュリティ相談室(3/3 ページ)

» 2015年07月10日 08時30分 公開
[萩原栄幸ITmedia]
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個人がいまできる防御策は?

 まず大切なことは、情報のアンテナを張り巡らせ、最新かつ信頼できる情報をいつも入手しておく。そして、以下の4つを実践したい。

  1. 漫然と歩いたり、考えもなく行動したりしない
  2. 他人に対して「無関心」でも「踏み込み過ぎ」もダメ
  3. 周囲の空気をいち早く感じ取る
  4. 「分散注意力」を体得する

 (1)は身近に危険が潜む。先日、筆者はあるスーパー銭湯に行ったが、靴箱のロッカーの番号と脱衣室のロッカーの番号、休憩室や食堂での注文伝票の番号が全てリンクしていた。1つの鍵で全てのサービスを決済できるわけだが、もし鍵を紛失して他の客に悪用されたら大きな損害につながる。しかも本人を確認する術もない。一見すると便利だが、そこには大きな落とし穴が潜んでいる。

 (2)に関しては、初対面の人に過剰に関わって嫌がられてしまう(戦争経験の女性に多い)のも良くないし、逆に若者は「関わり合いたくない」オーラを出して周囲からの接触を嫌がる人も多い。自分の身を本当に守るには、周囲の力も適度に借りられる「ほどほどの距離感」が大事だと思う。

(3)は今回の出来事で老人が車内を何度も行き来した後で行為に及んだように、通常ではない変化を感じとることでいち早く身を守る行動がとれるだろう。

 (4)は筆者の自戒も込めたもので、よく「萩原は分散注意力がない」と言われてきた。周りの状況をよく観察してこれからの行動が予定通りでいいのか、変更すべきかを見極める能力である。筆者はそれが苦手で、若い頃は猪突猛進型で大変苦労(しなくても済んだ苦労)したものである。今回の場合でも、自分のこと、隣席のこと、車両全体のことなど多方面の状況を常に考えながら、例えば夕方に顧客先で予定するプレゼンテーションの内容も確認してみる。そういう意識でどう行動すべきかを判断していく。これは情報セキュリティを実践する人も、そうでない人も身に付けて損のない能力だ。

 今回の出来事はとても悲しいものだが、安全のための何をすべきかを考える機会としたい。

萩原栄幸

日本セキュリティ・マネジメント学会常任理事、「先端技術・情報犯罪とセキュリティ研究会」主査。社団法人コンピュータソフトウェア著作権協会技術顧問、CFE 公認不正検査士。旧通産省の情報処理技術者試験の最難関である「特種」に最年少(当時)で合格。2008年6月まで三菱東京UFJ銀行に勤務、実験室「テクノ巣」の責任者を務める。

組織内部犯罪やネット犯罪、コンプライアンス、情報セキュリティ、クラウド、スマホ、BYODなどをテーマに講演、執筆、コンサルティングと幅広く活躍中。「個人情報はこうして盗まれる」(KK ベストセラーズ)や「デジタル・フォレンジック辞典」(日科技連出版)など著書多数。

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