他方で研究開発を推進する戦略の点からみると、欧州連合(EU)は2007年〜2013年に実施した「第7次欧州研究開発フレームワーク計画(FP7)」を受けて、2014年〜2020年を対象期間とする「ホライズン2020」を実施している。ホライズン2020は、研究の成果をイノベーションや経済成長、雇用につなげることを目的としており、(1)卓越した科学、(2)産業界のリーダーシップ確保、(3)社会的課題への取り組み――を優先事項に置いているのが特徴だ。
ホライズン2020における社会的課題への取り組みの一つとして、2015年2月にスタートしたプロジェクトが「ビッグデータ・ヨーロッパ」である。
このプロジェクトは、ビッグデータの観点から社会的課題の解決に挑む科学実務家に必要なICTインフラストラクチャの要求事項を収集し、その要件を満たす基盤アーキテクチャを設計・展開して、現行のワークフローへの影響を最小化すると共に、最先端を行くEUの研究・科学技術開発力を生かす機会を最大化することを目的としている。また、ビッグデータによる社会的課題解決の対象領域として「健康医療」「食品・農業」「エネルギー」「交通」「気候」「社会科学」「セキュリティ」の7つを挙げている。
ビッグデータの研究開発成果を事業化して、具体的なビジネスモデルや雇用につなげるために避けて通れないのが、前述の個人データ保護対策の課題だ。これに関して欧州委員会は、2015年4月に公表したファクトシート「EUデータ保護改革とビッグデータ」の中で、下記のような項目を示した。世界で最も厳格なデータ保護水準を維持することで信頼を醸成し、消費者にアピールすることよって、EU企業の競争力強化を図るのが狙いだと力説している。
現在、EU域内では、ビッグデータに限らず、IoT、モバイルヘルス、自動運転車、ドローンなど、個別の新技術領域における個人データ保護に関する議論が同時並行的に進んでいる。欧州で事業を展開する日本企業は、EU全域・加盟各国のマクロ的な視点だけでなく、個々の産業界、地域コミュニティといったミクロの視点からも、制度的な仕組みづくりの動向を注視し、日本国内とのハーモナイゼーションを検討していく必要があろう。
次回は、欧州のビッグデータを活用した社会的課題解決の領域として注目を集めるモバイルヘルスを取り上げる。
宮崎県出身、千葉大学大学院医学薬学府博士課程修了(医薬学博士)。デジタルマーケティング全般(B2B/B2C)および健康医療/介護福祉/ライフサイエンス業界のガバナンス/リスク/コンプライアンス関連調査研究/コンサルティング実績を有し、クラウドセキュリティアライアンス、在日米国商工会議所などでビッグデータのセキュリティに関する啓発活動を行っている。
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