例えば将来のロードマップがある程度明確なフォーマットであれば、その下位互換(何世代前まで読めるか)を確認して、その時期が来るよりも前に、新しい世代のメディアにデータをコピーします。
3年ごとに新しい世代の製品が発売されるとし、その下位互換性が2世代前までであれば、6年〜9年後くらいの間に新しいメディアへデータをコピーするのが安心です。実際には製品寿命も考慮する必要があります。製品サイクルが速いコンシューマー向け製品ならば、このマイグレーションサイクルも速くなりますし、データセンターなどで使用するようなエンタープライズ向け製品ならば製品寿命も長く、結果としてマイグレーションサイクルもより長くできます。ちなみにエンタープライズITの世界で幅広く使用されているLTOテープは製品製造期間がかなり長く、マイグレーションサイクルは10年程度を目安としています。
もう1つ重要なのは、データを新しいメディアにコピーする作業時間です。一気に作業をすると、ハードウェア(例えばPC)が長時間使えないなどの課題が発生します。また、いざ作業をするとなってもCDメディアが1000枚もあったら気が遠くなりますよね。そうなる前に新しい世代のメディアへのコピーを実施していただきたいところです。
ハードウェアのデータ読み出し速度などもちゃんと考慮する必要があります。前述したLTOテープは、1世代でデータの読み出し速度が倍になるケースがあります。逆を言えば、古い世代のメディアからデータを読み出す時に今使っているLTOの半分から4分の1ほどの速度しか出ないこともあります。コンシューマー製品に例えると、10倍ほどのスペック差があるUSB 3.0(理論値最大5Gbps)とUSB 2.0(理論値最大480Mbps)のHDDを使っていると思っていただければイメージしやすいでしょうか。
では、実際にマイグレーション作業をやってみましょう。古いメディアが読める装置と新しいメディアを用意してササッとコピー! と、いきなり実施する方法はお勧めできません。
事前にどれくらいの時間がかかるか。どのデータをコピーするのか。データまたはメディアの作業順序。そして、完了したかどうかのチェックリストを作成しておきましょう。こうすることで、あとで「本当にコピーしたのか」で不安になることがなくなります。
最後にデータがきちんとコピーできたことを確認すれば完了です。通常はコピーに失敗した場合は何らかのエラーメッセージが出はしますが、やはり新しいメディアを読んで、中のデータがあることを確認するほうが確実です。
ここまでデータマイグレーションの手順について説明してきましたが、あなたがデジタル製品に強くなければ、気が遠くなる作業に思われるかもしれません。
「こんなに面倒ならば、クラウドに保存すればいいのでは?」
……確かにそうかも知れません。しかし、本当にそれで大丈夫でしょうか? というわけで次回は「クラウドデータサービス」を使うときの注意点をいくつか紹介したいと思います。
(続く)
日本ヒューレット・パッカード株式会社 ストレージテクノロジーエバンジェリスト。ストレージ技術の最先端を研究、開発を推進。IT業界でハード設計10年、HPでテープストレージスペシャリストを15年経験したのち、現在SDS(Software Defined Storage)スペシャリスト。次世代ストレージ基盤、特にSDSや大容量アーカイブの提案を行う。テープストレージ、LTFS 関連技術に精通し、JEITAのテープストレージ専門委員会副会長を務める。大容量データの長期保管が必要な放送 映像業界、学術研究分野の知識も豊富に有する。
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