前田さんの前に立ちはだかったのは、導入における「投資対効果(ROI)」の説明だった。導入効果としてどのような指標を置くか、という役員の問いに対し、最初はなかなか話が進まなかったという。
しかし、役員と半年以上にわたって議論をする中で理解が進み、直接的な数値目標ではなく、間接的な指標へと変更することができた。
「BIはあくまでツールなので、使い方次第で効果が変わります。導入しただけでは、効果があるかどうか分かりません。毎週時間を取り、『今この部長に出しているリポートが月1回から週1回に変わるとどうなる?』といったことを話し合いました。その結果、セルフ化で分析のスピードが上がれば、最終的に売上への影響も必ずあると合意できたのです」(前田さん)
前田さんが導入を決めたのは「Tableau(タブロー)」だ。以前から、データ分析やレポーティングにTableauを個人で使っており「こっちの方が楽だな」と感じていたとのことで、導入に当たっては、その他のあらゆるツールも試したが、あらためてTableauの使い勝手が良いと感じたという。
「自分たちが展開しているビジネスによって、ツールの向き不向きは変わってくると思います。まずは試してみることが大切ですね」(前田さん)
このほか、Tableauについては「ユーザーコミュニティーが活発であること」や「アップデートの頻度が高い」ことも魅力的だったという。コミュニティーの盛り上がりを重視するのは、ノウハウの収集がスピーディにできるためだ。Web上のコミュニティーサイトやグローバルなユーザー事例を参考にすることで、分からないことはで大抵解決できる。前田さんがTableauを使って5年間、カスタマーサポートに問い合わせをしたことは2回しかないそうだ。
コミュニティーが活発なことでユーザーの声がフィードバックされ、製品の改善スピードが上がるというメリットもある。「ツールによってアップデートの頻度は大きく異なります。年に1回程度のものもありますが、Tableauだと月1回は更新があり、どんどんサービスが良くなっていると感じますね」(前田さん)
また、Tableauがさまざまなデータベースと接続できる点も、今後同社のシステムに変更があっても柔軟に対応できるという安心感につながった。
Tableauの導入により、従来Excelを中心に行っていたデータ分析業務の生産性が「15倍」(定型分析の場合)と飛躍的に向上したほか、それまでは不可能だった新しい分析も多数できるようになった。
サービスを提供しているWebサイトへのアクセスや、そこからどれだけの売上や申し込みにつながっているかというコンバージョン分析、在庫の適正化といった用途のほかに、最近では営業やコールセンターからも業務データの分析ニーズが出てきているという。
顧客向けサービスに関してだけでなく、社内のシステム開発業務のパフォーマンスや、データベースサーバのパフォーマンス、Tableau自体の利用状況などの確認にも利用しているというから、あらゆる面でセルフサービスBIを徹底的に活用しているといえる。
このようにセルフサービスBI導入でめざましい成果を上げているリクルートライフスタイルだが、セルフサービスBIを使う文化を社内に定着させるまでには、さまざまな苦労があったと前田さんは振り返る。(後編に続く)
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