AWSにも真っ向勝負――富士通の新クラウド事業戦略Weekly Memo(2/2 ページ)

» 2015年10月05日 17時00分 公開
[松岡功ITmedia]
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グローバルクラウドベンダーの一角に入り込めるか

 図2に示したK5の提供形態の中でも、富士通があらためてクラウド事業に注力する姿勢を明確に打ち出したと強く感じたのは、パブリッククラウドサービスのIaaS/PaaSに対するこだわりだ。

 阪井氏は、「当社はお客様のプライベートクラウド構築を年間1000件以上実施しており、業種・業務向けSaaSも100種以上提供している。こうしたことから、2014年度の国内シェアは、プライベートクラウドで22%、SaaSで19%を獲得した。ただ、IaaS/PaaSは6%にとどまっており、これをいかに挽回するかが大きな課題だと認識している」と語った。ちなみに国内シェアは、IDCの市場の数字と同社の販売実績を元に算定したものだという。

 そのうえで阪井氏は、IaaS/PaaS事業の課題として「IaaS/PaaSを活用したシステムインテグレーション(SI)の取り組みが不十分」「既存システムのクラウドへの移行実績がない」「SIer/SaaS事業者向けの取り組みが不十分」の3点を挙げ、それぞれに「SE部門の新たなインテグレーションサービスへの革新」「富士通の全社640システムをクラウドに移行」「エコシステム作りに向けたプログラムを拡充」といった新たな取り組みを行っていくとしている。

 ちなみに、全社システムのクラウド移行については、先述した5月18日掲載の本コラムを参照していただきたい。また、エコシステム作りについては、今回の発表で、例えば販売パートナー向けに「粗利保証型再販プログラム」を実施することを明言した。

 上記のIaaS/PaaSをめぐる話で筆者が最も同社のこだわりを感じたのは、阪井氏がこれらを会見の冒頭で最重要の取り組みとして述べたことである。そのうえで同氏に続いて今回の発表内容の詳細な説明を行った同社の中村記章 デジタルビジネスプラットフォーム事業本部 副本部長が、K5のパブリッククラウドサービスにおける他社との価格比較例として図3を示した。K5の価格優位性が見て取れる図だ。中村氏はこの点について、「オープン技術の採用と社内実践による効率化により、競争力のある価格を実現している」と説明した。ちなみに他社とは、Amazon Web Services(AWS)を想定しているという。

weeklymemo 図3:「K5」のパブリッククラウドサービスにおける他社との価格比較例

 もう1つ、K5のPaaSについても取り上げておきたい。全体像は図4の通りである。中村氏によると、「一般的にPaaSといえば、この図にもある汎用コンポーネントだけを指すことが多いが、K5のPaaSは、SoRからSoEまで様々なシステムに適用できるナレッジを搭載した機能を提供している」と、阪井氏が差異化ポイントに挙げていることを重ねて強調した。

weeklymemo 図4:「K5」のPaaSの全体像

 このように、富士通はk5においてリニューアルした全方位のクラウドサービスを用意するとともに、あらためてIaaS/PaaSにも注力する姿勢を明らかにした。IaaS/PaaSの国内シェアは2020年度で15%を狙う。そして2016年度からはK5を順次グローバルにも展開し、2017年度にクラウド事業全体の売上高として4000億円(2014年度実績2400億円)を目指す構えだ。

 国産クラウドベンダーとして全方位のサービスを手掛け、AWSにも真っ向勝負を挑む姿勢を明確にしているのは富士通だけだ。果たしてグローバルクラウドベンダーの一角に入り込んでいくことができるか。大いに注目しておきたい。

weeklymemo 会見に臨む富士通の阪井洋之 執行役員常務 グローバルマーケティング部門長(左)と中村記章 デジタルビジネスプラットフォーム事業本部 副本部長

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