「コグニティブビジネス」に注力するIBMの思惑Weekly Memo(2/2 ページ)

» 2015年10月13日 17時00分 公開
[松岡功ITmedia]
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「コグニティブビジネス」の拡大を目指す理由

 コグニティブコンピューティングに対するこうした考え方は、人工知能(AI)との違いにも見て取れる。コグニティブコンピューティングは、一般的にはAI領域のテクノロジーだが、IBMはAIという表現を使っていない。それどころか、AIとは明らかな違いがあるという。ジル氏はこの点について次のように説明した。

 「テクノロジーという観点では、コグニティブコンピューティングがAIの手法も取り入れているは確かだ。ただし、目的が明らかに違う。AIが目指しているのは、人間ができることのイミテーションを実現することだ。それに対し、コグニティブコンピューティングが目指しているのは、人間の意思決定や活動をサポートすることだ。これはすなわち、テクノロジーのあり方における見解の決定的な違いを意味しており、私たちは自らの考え方に強い自負を持っている」

 こう聞くと、確かにジル氏の言う通り、AIとは「テクノロジーのあり方における見解の決定的な違い」がある。これは企業としての「見識」ともいえよう。ただ、IBMがコグニティブコンピューティングに注力するのには別の観点があるのも明らかだ。それを象徴するのが、ジル氏の冒頭の発言である。

 同氏が言うように、コグニティブコンピューティングはすべてのビジネスに関わることから、IBMでは「コグニティブビジネス」とも呼んでいる。同氏自身は直接ビジネスを推進する立場ではないので、コグニティブビジネスについては多くを語らなかったが、その中でも次のコメントが印象的だった。

 「コグニティブコンピューティングといえば、これまではWatsonが象徴的だったが、今後このテクノロジーはIBMのすべてのビジネスに取り入れられ、全社一丸となってコグニティブビジネスを推進していくことになる。コグニティブコンピューティングはテクノロジーだが、それを活用してビジネス価値、ひいては社会的価値として広く普及させていくのが、コグニティブビジネスの使命であり、最終的なゴールである」

 先ほど、ジル氏の発言において、AIとの比較で「テクノロジーのあり方における見解の決定的な違い」とあったが、そこには人間の意思決定や活動をサポートするコグニティブコンピューティングに対するビジネスポテンシャルの大きさも、当然ながら計算に入っているだろう。折しもIBMは10月6日(米国時間)、コグニティブビジネスを推進する2000人以上のコンサルティング組織を発足させた。まさに一気呵成の勢いで挑む構えのようだ。

 このところ、AI関連の話題が連日のようにメディアを賑わせているが、IBMのコグニティブビジネスへの注力は、この分野がテクノロジーだけでなく実際のビジネスとして大きく動き出す方向へと、潮目が変わるきっかけになるかもしれない。

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